「いい加減、ゲームやめなさい! 宿題やったの!?」 「あとちょっと! このボス倒したら……!」
リビングに響き渡る、妻と息子の不毛なやり取り。またか……と、俺はノートパソコンの画面から目を上げ、大きくため息をついた。
小学2年生の息子、蓮(れん)の頭の中は、99%がゲームでできている。魔法、モンスター、伝説の剣。その情熱を、ほんの少しでも勉強に向けてくれたなら。
テーブルの上には、手付かずの算数のプリント。「=」で結ばれた数字の羅列は、蓮にとってモンスターよりもはるかに難解で、つまらない敵に見えるらしい。
これまで、ありとあらゆるものを試してきた。 人気キャラクターが描かれたカラフルなドリル。 タブレットで学習する流行りの通信教育。 「1ページやったら30分ゲームOK」というアメとムチ作戦。
結果は、惨敗。どんな工夫も、ピコピコと鳴り響く電子音と、画面の中で繰り広げられる壮大な冒険の魅力には敵わなかった。
「このままじゃ、この子の将来は……」
漠然とした不安が、鉛のように心を重くする。父親として、何かしてやれることはないのか。無力感だけが募る、そんな夜だった。まさか、この状況を打破する鍵が、今まさに自分が仕事で使っている「AI」だとは、夢にも思わずに。
始まりは、父親の悪あがき
その夜、いつものようにリビングで仕事の続きをしていると、隣の部屋から蓮の寝息が聞こえてきた。俺は、ここ数ヶ月のルーティンになっている「小学2年生 勉強 集中させる方法」という、もはや答えの出ない検索を繰り返していた。
ふと、開いていた仕事用のAIチャット画面が目に入る。
(このAI、複雑な文章も作れるし、プログラムのコードだって書ける。だったら……もしかして……)
まるで、天啓だった。 いや、藁にもすがる父親の、最後の悪あがきだったのかもしれない。
俺は、AIのチャットウィンドウに、震える指でこう打ち込んでみた。
「小学2年生向けの、かけ算の問題を10問作ってください」
すぐに、無機質な問題が10個、画面に並んだ。
- 2 x 3 = ?
- 4 x 5 = ? ...
「だよな。こんなの、ドリルの裏表紙に載ってるやつと変わらない……」
がっかりしてウィンドウを閉じようとした、その時。蓮の机に置かれた、彼が夢中で描いたモンスターの絵が目に入った。一つ目の巨大なスライム、翼を持つドラゴン、そして、それに立ち向かう、剣を持った小さな勇者。
(そうだ、主役は、蓮なんだ)
俺の目に、光が宿った。もう一度、AIに向き直る。今度は、ただの父親じゃない。息子の心を動かす、ゲームマスターの顔で、魔法の呪文(プロンプト)を唱え始めた。
AIに魂を吹き込む「魔法の呪文(プロンプト)」
俺はまず、AIに「役割」を与えることにした。
「あなたは、世界を救う勇者を育てる、伝説の賢者です。これから、小学2年生の勇者レン(蓮)に、算数の試練を与えてください。レンは冒険とモンスターが大好きです。彼が夢中になるような、物語形式の問題を作成してください」
エンターキーを押す。数秒の沈黙。そして、画面に現れたテキストに、俺は思わず「おお……」と声を漏らした。
賢者AI: 「よろしい。若き勇者レンよ、よくぞ来た。世界を闇から救うには、知恵と勇気が必要不可欠。最初の試練は『ゴブリンの森』じゃ。心して挑むのじゃぞ!」
【試練1:ゴブリンの奇襲】 森を進む勇者レンの前に、1匹あたり3本の棍棒を持つゴブリンが、4匹現れた! ゴブリンたちが持っている棍棒は、全部で何本じゃ? (式と答えを答えるのじゃ!)
すごい……! ただの「3 x 4」の問題が、壮大な物語のワンシーンに変わっている。俺は興奮しながら、さらに蓮の「大好き」を詰め込んでいった。
「素晴らしいです! では次に、レンが好きな『炎の魔法』と『スライム』をテーマにした問題をお願いします。少し難しくして、倒した後の報酬(経験値)も設定してください」
賢者AI: 「うむ、見事じゃ、勇者レン! ゴブリンの森を抜けた先に広がるのは『ぶよぶよ沼』。そこには大量のスライムが待ち構えておるぞ!」
【試練2:スライム大発生】 沼には、1匹倒すと5ポイントの経験値がもらえるブルースライムが8匹おる。すべてのブルースライムを炎の魔法で倒すと、もらえる経験値は何ポイントじゃ? さらに! 沼の奥には、1匹倒すと10ポイントの経験値がもらえるボス、キングスライムが1匹潜んでおる。すべてのスライムを倒すと、合計で何ポイントの経験値を獲得できるかな?
「これだ……! これなら、蓮も……!」
俺は夢中になった。蓮が好きなキャラクター、アイテム、魔法の名前。彼がゲームの中で話していたセリフ。俺が知っている蓮のすべてを、AIに注ぎ込んだ。
- 足し算は「薬草を調合する問題」に。
- 引き算は「HP(体力)の計算問題」に。
- 文章問題は「王様からのミッション」に。
たった1時間で、蓮のためだけに作られた、世界に一つだけの算数ドリル「勇者レンの冒険 第1章」が完成した。A4用紙に少しワクワクするようなフォントで印刷し、挿絵として蓮が描いた勇者の絵を貼り付けた。
ゲームより夢中になった息子の「変化」
翌日の土曜日。 いつものようにリビングでゲームを始めようとする蓮に、俺は少し緊張しながら、自作のドリルを差し出した。
「蓮、ちょっとこれ、見てみないか?」 「なにこれ、勉強? やだー」 「まあ、いいから。1ページ目だけでいいからさ」
渋々、という顔でドリルを覗き込んだ蓮の目が、次の瞬間、大きく見開かれた。
「え……? これ、勇者レンって……僕の名前じゃん!」
食いついた。俺は心の中でガッツポーズをする。
「そうだよ。王様から、勇者レンにミッションが届いてるんだ」 「ゴブリンの森……棍棒は、3本が4匹だから……3×4は……12本だ!」
蓮は、まるでゲームのコントローラーを握るかのように、必死に鉛筆を握りしめている。そして、答えを書くと、キラキラした目で俺を見た。
「パパ、合ってる!? 僕はゴブリンに勝てた!?」 「大正解だ! 勇者レンは、見事ゴブリンの奇襲を打ち破った!」
「やったー!」と声を上げる蓮。その顔は、勉強を「させられている」顔ではなかった。物語の主人公として、困難なミッションをクリアした、誇らしげな「勇者の顔」だった。
そこからの蓮は、まさに無双状態だった。 「次の試練は!? ぶよぶよ沼はどこ!?」 「キングスライム、経験値高すぎ! 絶対倒す!」
これまで頑なに見向きもしなかった計算問題を、ゲームを攻略するかのように、凄まじい集中力で解いていく。俺が用意した「第1章」の10ページは、わずか30分でクリアされてしまった。
そして、蓮が口にした言葉に、俺は耳を疑った。
「パパ……第2章は? 次の冒険は、まだないの?」
ゲームの続きをねだるように、勉強の続きを、彼は自ら要求してきたのだ。
俺は、こみ上げてくるものを抑えきれなかった。妻も、信じられないという顔で、でも、とても嬉しそうに、その光景を見ていた。
世界に一つだけの「最強ドリル」作成法【コピペOK】
あの日から、我が家の勉強スタイルは一変した。俺が「賢者AI」と共に夜な夜な作る「勇者レンの冒険」は、今や第5章に突入。算数だけでなく、漢字のミッション(「『火』の漢字がつく魔法を3つ探せ!」)や、読解力の試練(「村人からの手紙を読んで、困っていることを見つけ出せ!」)など、全教科に広がりつつある。
もし、かつての俺と同じように、お子さんの勉強嫌いに悩んでいるのなら、ぜひ試してみてほしい。これは、ただのテクニックじゃない。子供の「大好き」に寄り添う、親の愛情の形だ。
最後に、俺が使っている「魔法の呪文(プロンプト)」の基本形を、特別に公開しよう。
【コピペOK!】うちの子専用ドリル作成・基本プロンプト
役割設定(最初にこれを入力)
あなたは、〇〇(例:伝説の魔法使い、宇宙船のキャプテン、人気アイドルのプロデューサーなど)です。これから、小学〇年生の主人公〇〇(お子さんの名前)に、楽しい試練(勉強)を与えてください。主人公は〇〇(お子さんが好きなもの。例:恐竜、電車、プリンセスなど)が大好きです。その要素をふんだんに盛り込み、主人公が物語のヒーロー/ヒロインになれるような、ワクワクする問題を作成してください。
問題作成(役割設定に続けて入力)
今回は「〇〇(教科。例:小学2年生のかけ算)」の試練です。以下のテーマで、物語形式の問題を5問作成してください。 * テーマ:〇〇(問題に入れたい要素。例:最強のドラゴンとの対決、新しい新幹線を開発する、など) * 報酬:問題を解くと、〇〇(例:経験値、ゴールド、新しい衣装など)が手に入る設定にしてください。 * 難易度:〇〇(例:易しめ、応用問題も混ぜる、など) * トーン:主人公を励まし、褒めるような、優しい言葉遣いでお願いします。
AIは、万能の魔法の杖ではないかもしれない。でも、使い方次第で、子供の無限の可能性を引き出し、親子の時間をもっと豊かにしてくれる、最高の相棒になる。
「勉強しなさい」が、「次の冒険に出発だ!」に変わる日。 それは、AIと、ほんの少しの親の愛情があれば、きっとすぐにやってくるはずだ。
さあ、今夜。あなたも、お子さんのためだけの「最高のゲームマスター」になってみませんか?