エンジニアの思い立ったが吉日

AI・生成AI・開発ツール・業務効率化のトピックを、20年エンジニア視点で ゆるく整理しているブログです。「現場で本当に効くか」を毎回自分なりに 見極めながら書いています

Claude Coworkがスマホに来た、でも利用の9割は開発じゃない

Coworkの利用データを見て、意外だったのは「開発に使われているのは全体の8.7%だけ」という数字のほうだった。スマホ対応というヘッドラインより、こっちのほうがよほど今のAnthropicの狙いを語っている気がする。7月7日、Anthropicは1月にデスクトップで始めた「Claude Cowork」を、WebとモバイルにもMax向けに広げた。

Cowork(コワーク)というのは、Claudeが「同僚のように」仕事を丸ごと引き受けて進めてくれるエージェント機能のこと。チャットで一問一答するのではなく、「この資料を全部読んで要点をまとめておいて」みたいなタスクを渡して、あとは任せる。1月時点ではデスクトップアプリだけの提供だった。それが今回、置き場所を選ばなくなった。

ノートPCを閉じても、仕事のほうは終わっている

今回の拡大で効いてくるのは、置き場所が増えたこと以上に「デバイスと作業が切り離された」点だと思う。

これまでのCoworkは、動かしているアプリが載ったマシンが起点だった。デスクのMacで走らせたタスクは、そのMacの前に戻らないと様子が分からない。今回はそこが変わって、デスクで始めた作業の進捗をスマホで確認して、ノートを閉じて帰っても、完成した成果物を後から受け取れる。作業の本体はクラウド側に移っていて、手元の端末は「窓口」でしかない。

もっと踏み込んでいるのがバックグラウンド実行のほう。どの端末もオンラインじゃなくても、クラウド上でClaudeが作業を続ける。「明日の朝8時にこれをやっておいて」と時刻を指定して仕込んでおくこともできる。寝ている間、通勤している間に、勝手にタスクが一段進んでいる状態を作れる。

とはいえ、全部を任せきりにはできない。途中で「これはあなたにしか決められない」という判断ポイントが出てきたら、Claudeはそこで止まって、スマホに質問を飛ばしてくる。許可を出せば続きが動く。完全自動と手動監督の中間に、ちょうどいい線を引いてきた設計になっている。

Anthropicが出した数字、コード書きは全体の8.7%

同じ日に、Anthropicは「実際にCoworkが何に使われているか」の統計も公開した。ここが今回いちばん面白いところ。

5月末の2週間、60万を超える組織の120万セッションを匿名集計したデータで、最大の利用カテゴリは「業務プロセス・運用」で33.4%。散らばった進捗をひとつのレポートにまとめる、オンボーディングのチェックリストを組む、スプレッドシートの数字を突き合わせる。この手の、地味だけど毎日発生する事務仕事だ。次が「コンテンツ制作・コピーライティング」で16.4%。下書き、スライド、投稿、提案書づくり。この上位2つだけで、利用全体のおよそ半分を占めている。

で、肝心のソフトウェア開発は8.7%。DevOps・インフラが7%、リサーチが6.4%、データ分析が5.8%と続く。開発以外の仕事が9割を超えている。

これ、業界の空気とだいぶズレている数字なんだよな。ここ半年、AIエージェントの話題はほぼコーディング一色だった。CodexだClaude Codeだと、開発者向けツールの発表が毎週のように流れてきて、「AIエージェント=プログラマの道具」という印象が固まりかけていた。ところが実際にCoworkを使っている人の大半は、コードを一行も書いていない。経理やHR、マーケ、総務まわりの人が、日々の面倒な作業を任せている。

「コーディング特化」の看板を、Anthropicは下ろしにきた

この統計をわざわざ拡大と同じ日に出してきたのは、Anthropicの意思表示だと読んでいる。

TechCrunchは今回の動きを「コーディングエージェントの戦争が、オフィスの他の部署に染み出してきた」と表現していた。うまい言い方だと思う。開発者という狭い市場で各社が消耗戦をやっている横で、Anthropicは「Coworkは開発ツールじゃない、あらゆる職種の汎用的な同僚だ」というポジションを取りにいった。スマホとWebに広げたのも、開発者だけならデスクトップで足りるところを、営業も事務も外回りの人も使う前提だからこそ、端末を選ばない形にした、と考えると筋が通る。

半年前、Codexがスマホアプリに乗ったときの話を覚えている人もいると思う。あれは「実マシンで動く開発エージェントを、外から監督する窓口」という設計だった。あくまで主役はコードで、スマホは補助線。今回のCoworkは発想が逆で、最初から非エンジニアの日常業務が主戦場になっている。同じ「スマホでエージェント」でも、狙っている相手がまるで違う。

エンジニアより、隣の非エンジニアにこそ効く

マネージャー目線で考えると、Coworkの導入価値がいちばん高いのは、実は開発チームじゃなくて、その隣の部署だと思う。

エンジニアはもともとClaude CodeやCodexを日常的に使い込んでいて、エージェントに仕事を渡す感覚に慣れている。一方で、経理や人事、営業事務のような部門は、AIといえばチャットで質問する程度の使い方で止まっていることが多い。「レポートを毎週手で集計している」「同じ体裁の資料を毎回ゼロから作っている」みたいな、時間は食うのに評価されにくい作業が山ほど眠っている。Coworkの統計で業務運用が33%を占めているのは、まさにそこが刺さっているからだ。

これから社内に入れるとしたら、僕なら開発部門より先に、バックオフィスの定型業務から試させる。「月次の進捗を各所から集めて1枚にまとめる」あたりを最初のタスクにすると、効果が分かりやすい。エンジニアが感動する機能と、事務職の毎日が楽になる機能は、必ずしも同じじゃない。

ただ、組織で使うなら情シスや管理側が先に考えておくことがある。バックグラウンドで、端末がオフラインのまま自律的に作業が走るということは、「誰が・いつ・何のデータに触れたか」の管理が今までより見えにくくなるということでもある。便利さと引き換えに、アクセス権限とログの設計をどう握るかは、導入前に詰めておきたいポイント。

便利さの裏で、様子見しておきたいところ

手放しで勧められる段階かというと、まだそうでもない。正直に書いておく。

まず提供範囲。今回のWeb・モバイル対応はMax(Claudeの上位有料プラン)加入者向けのベータで、数週間かけて順次広がる。全ユーザーがすぐ触れるわけじゃないし、Maxはそれなりの月額がかかる。組織全体に配るとなると、費用対効果の見極めがいる。

自律実行そのものにも、慎重になっていい理由がある。人が見ていない間にクラウドで作業が進む以上、間違った方向に走り出したときの発見が遅れる。判断ポイントでスマホに聞いてくる仕組みはあるけれど、通知が増えすぎれば「とりあえず許可」で流し読みするようになる。これは人間側の運用の問題で、機能が丁寧に作られていても防ぎきれない。重要な判断を含むタスクほど、最初のうちは結果をちゃんと自分の目で確認する癖をつけたほうがいい。

あと、公開された統計はあくまで「何に使われているか」であって、「どれだけうまくいっているか」ではない。業務運用に33%使われていても、その成果物が実務でそのまま通ったのか、手直しが必要だったのかまでは分からない。数字の解像度はまだ粗い、というのは頭に置いておきたい。

自分の仕事の、どれを最初に手放すか

Coworkの今回の更新は、機能そのものより「AIエージェントは開発者だけのものじゃない」という事実を、数字で突きつけてきたところに意味がある。開発が8.7%という比率は、半年後にはもっと下がっているんじゃないかと見ている。使う職種が広がるほど、分母の非開発業務が膨らむからだ。

Maxを使っているなら、まず自分の一週間を思い返して、「毎回同じ手順でやっている、頭を使わない作業」をひとつ選んでほしい。週次の集計でも、定例資料の下書きでも、散らばった情報の要約でもいい。それをCoworkに渡してみて、帰ってきた成果物を評価する。エージェントに任せる感覚は、一度自分の実務で体験しないと掴めない。開発者じゃない人ほど、その一回で仕事の景色が変わると思う。

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