エンジニアの思い立ったが吉日

AI・生成AI・開発ツール・業務効率化のトピックを、20年エンジニア視点で ゆるく整理しているブログです。「現場で本当に効くか」を毎回自分なりに 見極めながら書いています

Grok が Word・Excel・PowerPoint に正式対応。Copilot とどう使い分けるか

Grokがついにオフィスソフトに来た、と聞いて、どうせ別ウィンドウのチャットからコピペするやつでしょ、と高をくくっていた。ところが公式ページを開いたら、思っていたのとだいぶ違った。チャットの外で文章を作って貼り戻すのではなく、いま編集している文書やシートの中で直接書き換える。しかもアドインの追加自体は無料。Copilotの牙城にここまで踏み込んでくるとは、正直思っていなかった。

チャットからのコピペ、ではなかった

最初に誤解を解いておきたい。今回のGrokは、Officeの横で動く「外付けのチャット」ではない。

正体は、Microsoft 365のアドインだ。アドインというのは、WordやExcelに後から差し込める拡張パーツのこと。今回のGrokは、文書の隣にパネルとして居座る形で動く。別タブでもなければ、別ウィンドウでもない。導入はMicrosoftのマーケットプレイスから1クリックで、しかも無料で追加できる。管理者がまとめて組織全体に配ることもできる。入れたあとはリボンの「ホーム」タブから呼び出して、一度サインインすれば準備完了。

肝心なのは、Grokが「いま開いているファイルそのもの」に手を入れる点だ。Wordなら、文法を直したり言い回しを締めたりした結果が、コピーではなく元の文書に直接反映される。しかも変更は履歴の残るかたちで入るので、1つずつ見比べて、残すか取り消すかを選べる。コピペして自分で貼り戻す、あの一手間がない。ここが、事前に報じられていた「サイドバーからコピペするだけ」という話と、実物がいちばん違うところだった。

Word・Excel・PowerPoint で、それぞれ何ができるのか

中身をアプリごとに見ていく。

Wordは、書く前と直すときの両方に効く。箇条書きのラフなメモと「こういう形にして」という指示を渡すと、本物の見出しやリスト付きの構造化された文書をその場で書き起こす。出来上がった文章に対しては、文法の修正や表現の簡素化を文書内に直接当てて、変更点をビフォーアフターで見せてくれる。長い資料が複数人の手を経てバラついた見出しの大文字小文字や用語を、一度のパスで揃え直す、という地味に助かる使い方も挙がっている。

Excelは、個人的にいちばん刺さると思った。範囲を選んで「ここ、何が起きてる?」と聞くと、根拠にしたセルを示しながら答えが返り、グラフはシートに直接落ちる。数式は、やりたいことを普通の言葉で説明すれば、本物の数式が数式バーに入る形で組まれる。下振れシナリオを試したり、月次の締めをやり直したりも、シートを手で組み直さずに一行の指示でいける。変わったセルには印がつく。公式は「エクスポートも、表のコピーもいらない」と何度も強調していて、選んだ範囲しか読まない、という見せ方を徹底している。

PowerPointは、アウトラインを渡すとスピーカーノート付きの一通りのデッキが返ってくる。スライドはレールにライブで増えていく。テーマやマスターのスタイルに合わせてスライドを足したり、章を組み替えたりも一声でこなし、あとから書式を直す手間がない。冗長なスライドを削って、各ページのタイトルが結論を言い切る形に整える、いわば構成の引き締めまで面倒を見る。

Copilot と並べると、強いところと足りないところ

ここで気になるのが、本家Copilotとの距離感だ。先に言っておくと、これは「どっちが勝ち」の話じゃなくて、得意分野が違うという話になる。

Copilotの強みは、Office全体に深く根を張っていること。Wordだけでなく、Outlookでメールを書き、Teamsの会議に同席し、Microsoft Graph経由で社内のメールや資料といった組織のデータを踏まえて答えられる。仕事の流れから出ずに全部こなせるのが効く。料金は法人向けで1ユーザーあたり月30ドルの追加が目安で、これが「高い」と言われ続けてきたのは、使っている人なら覚えがあるはず。

対するGrokは、いまのところWord・Excel・PowerPointの3つに閉じている。OutlookやTeamsには出てこないし、社内データを正面から束ねて読む仕組みも公式では見当たらない。差別化になるのは、まず追加が無料で始められる身軽さ。それと、Webの最新情報に強いGrok本体の地力だ。ただ、GrokならではのXのリアルタイム情報をOfficeの中でどこまで使えるのかは、公式のOfficeページでは触れられていないので、過度な期待は禁物。文書を書く道具というより、外から呼んでくる切れ者のコンサルに近い立ち位置だと思う。全部をGrokに寄せるというより、Copilotで土台を回しつつ、最新の外部情報が要る場面や、ちょっと尖った視点が欲しいときにGrokを挿す、という併用が現実的な落としどころになりそうだ。

情シスが気にするのは、データがどこへ行くか

便利さの裏で、導入を預かる側がいちばん引っかかるのはここだと思う。Grokが処理するデータは、xAIのサーバーに渡る。

これは、Microsoftの管理境界の外にデータが出る、という意味になる。CopilotならMicrosoft 365のコンプライアンスの枠内で完結し、Purviewのような統制も効く。Grokはその枠を通らない。xAI側は「選んだ範囲しか読まない」「エクスポートしない」「データはワークブックの外に出ない」とプライバシー寄りの見せ方をしているが、選んだ範囲そのものは結局Grokに送られて処理される、という事実は変わらない。金融や医療、法務のように規制の重い現場では、そもそも追加をブロックする判断も普通にありうる。

管理者が組織全体に一括配布できるのは、入れる側からすると楽だけれど、裏返せば「気づいたら現場が使っていた」という事態も起こりやすい。無料で1クリックという手軽さは、ガバナンスの観点では諸刃だ。まず社内のどの文書なら通していいのか、その線引きを先に決めるのが順番だと思う。

自分の仕事のどこに挿すか、から考える

正直に言うと、実際にアドインを入れて回したわけではないので、回答精度の体感まではまだ言えない。それでも、追加が無料で、選んだ範囲にしか触らないのなら、機密に触れない文書で一度試してみるハードルはかなり低い。たとえば社外秘でない議事録の整形や、公開予定の資料のたたき台づくり。そのあたりから始めて、Copilotと並べて出力を見比べるのがいい。

ひとつ気をつけたいのは、いまのところ「アドインの追加が無料」なのは確かでも、本格的に使い込むのにどのGrokの有料プランが要るのかは、公式のOfficeページでははっきりしないこと。ここは契約前に確かめておきたい。あとはGrokの少し砕けた語り口が、かしこまった文書で顔を出さないか。このへんは触りながら見極める話になる。

Officeの中で「今日はどのAIに任せるか」を選べる時代が、思っていたより早く来た。Copilot一択だった人ほど、無料で挿せるうちに一度Grokを並走させて、自分の仕事のどの工程に合うのかを肌で確かめておくといい。選択肢があると分かっているのと、実際に使い分けられるのとでは、半年後の効率がだいぶ変わってくるはずだ。

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