エンジニアの思い立ったが吉日

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AIエージェント開発の常識が変わった——Claude Managed Agentsで本番リリースが10倍速くなる理由

「AIエージェントを作ってみたいけど、インフラの準備だけで数ヶ月かかる」

そんな声を、エンジニアなら一度は聞いたことがあるんじゃないか。AIモデル自体の性能は急速に上がっているのに、実際のサービスに載せるまでの道のりが長すぎる。サンドボックス化、状態管理、認証基盤、権限制御、実行トレース……プロトタイプから本番環境に持っていくだけで、本来やりたかった「エージェントの設計」とは全然別の仕事が山積みになる。

2026年4月8日、Anthropicがこの問題に正面から向き合ったサービスを公開ベータでリリースした。Claude Managed Agentsだ。

「10倍速く本番に出せる」という触れ込みで登場したこのサービスが何者なのか、何ができて何ができないのか、どんな会社がどう使っているのか。この記事で徹底的に解説する。

そもそもAIエージェントって何? まず基本を整理しよう

「AIに質問する」と「AIエージェント」はどう違う?

ChatGPTやClaudeに質問を投げて答えをもらう——これは「1回のやりとりで完結する」使い方だ。メッセージを送ったら返答が来て終わり。

一方、AIエージェント(AI agent)は違う。こちらから指示を出すと、AIが自分でタスクを分解し、ツールを呼び出し、複数のステップを自律的にこなして最終的な成果物を届けてくれる。

たとえば「このコードのバグを直してプルリクエストを出しておいて」という指示を出すと、エージェントはコードを読んで→問題を特定して→修正を書いて→テストを実行して→PRを作成する、という一連の作業を自動でやってくれる。人間が「次は何をするか」を指示し続けなくていい。

これがAIエージェントの本質だ。

なぜいま「エージェント開発」が熱いのか

Gartnerの調査によれば、マルチエージェントシステムへの問い合わせは2024年第1四半期から2025年第2四半期にかけて1,445%も急増した。2026年末には、エンタープライズアプリケーションの40%がタスク固有のAIエージェントを含むようになると予測されている。

一方で実態はどうかというと、多くの企業がプロトタイプは作れても本番リリースまで辿りつけていない。その最大の壁が「インフラ整備」の負担だ。


Claude Managed Agentsとは何か——仕組みをわかりやすく説明する

「インフラを全部Anthropicに任せる」というコンセプト

Claude Managed Agentsは、Claudeを自律的なエージェントとして動かすためのハーネスとインフラをまるごと提供するサービスだ。自分でエージェントループ、ツール実行、ランタイムを構築する代わりに、完全にマネージドされた環境でClaudeがファイル読み込み、コマンド実行、Webブラウジング、コード実行をセキュアに行える。プロンプトキャッシング、コンテキストの自動圧縮など、高品質で効率的なエージェント出力のためのパフォーマンス最適化も組み込み済みだ。

料理に例えるとこんな感じだ。

従来のエージェント開発は「食材だけ渡されて、キッチンも道具も自分で用意してね」という状態だった。Claude Managed Agentsは「キッチンも道具もこちらで用意したので、レシピを考えることに集中してください」という状態に変える。

Messages APIとManaged Agentsの違いを比べると

AnthropicがClaudeで構築する方法は2つある。

Messages API(従来) Claude Managed Agents
何をするか モデルへの直接プロンプトアクセス 構成可能なエージェントハーネス+マネージドインフラ
向いている用途 カスタムエージェントループ、細かい制御 長時間タスク、非同期処理
インフラ整備 自前で用意する必要あり Anthropicが全て担う
状態管理 自前実装 組み込み済み
トレース・デバッグ 自前実装 Consoleに標準搭載

4つの核心機能

Managed Agentsには4つの主要機能がある。

①本番グレードのエージェント実行 セキュアなサンドボックス、認証、ツール実行がすべて処理済みの状態で使える。コンテナの設計もセキュリティ設定も自前で作らなくていい。

②長時間セッション 安全なコンテナ内でコマンド実行やファイル操作、Webアクセスを行いながら、数時間にわたって自律的に動作できる。接続が一時的に切れても、進捗や生成物が保持される。プロセスが途中で死んで最初からやり直し——そういった悪夢から解放される。

③マルチエージェント連携 エージェントが他のエージェントを起動・指示して、複雑な作業を並列化できる(現在はリサーチプレビュー)。大きなタスクを専門エージェントに分担させることで、単一エージェントでは難しかった規模の作業も捌けるようになる。

④ガバナンス管理 スコープ付きの権限、アイデンティティ管理、実行トレーシングが組み込まれている。「エージェントが何をしたか」を後から追跡できるのは、企業利用では欠かせない要素だ。


実際にどれくらい速くなるのか——数字で見る効果

開発期間の変化:数ヶ月から数日へ

本番エージェントをリリースするには、サンドボックス化されたコード実行、チェックポイント、クレデンシャル管理、スコープ付き権限、エンドツーエンドのトレースが必要だ。それだけで、ユーザーが実際に触るものを何も出荷しないまま数ヶ月のインフラ作業が発生していた。

Anthropicの説明では、ツール呼び出し、コンテキスト管理、エラー回復を含む実行ハーネスを提供することで、開発者が個別のエージェントループを自前で組み直す負担を大幅に削減できる。

内部テストの結果

構造化ファイル生成に関する内部テストでは、Managed Agentsが標準的なプロンプトループと比べてタスク成功率を最大10ポイント改善した。特に難しい問題での改善幅が大きかった。

モデルを変えるより、実行環境を最適化した方が効く——というのは開発者にとって直感に反するかもしれないが、実際に数字が出ている。

セッションコスト構造

料金体系はClaudeの通常API料金にセッション実行時間課金を組み合わせる形だ。重要なのは、時間課金が常時発生するわけではない点だ。Anthropicは、running状態の時間だけをミリ秒単位で積算し、入力待ちや停止中の時間は課金対象外としている。

公式発表によれば、セッション実行時間は$0.08/セッション時間で課金される。待機中は課金されないので、実際の利用パターン次第でコストは変わってくる。


実際の導入事例——5社の使い方を読み解く

Notion:チームの作業を丸ごと委任できるワークスペース

NotionはManaged Agentsを使い、ワークスペースの中から直接Claudeに作業を委任できる機能を構築した。エンジニアはコードを書かせ、ナレッジワーカーはウェブサイトやプレゼンを作らせる。数十のタスクが並列で走り、チーム全員がその成果物を一緒に確認・編集できる。

「AIツールを別のアプリで使って結果をコピペする」という手間がなくなる。普段の仕事の流れの中にエージェントが溶け込む、という形だ。

楽天:専門エージェントを1週間でデプロイ

楽天は製品、営業、マーケティング、財務、人事にわたるエンタープライズエージェントをSlackやTeamsに接続した。従業員がタスクを割り振ると、スプレッドシート、スライド、アプリといった成果物が返ってくる。各専門エージェントは1週間以内にデプロイされた。

1週間でデプロイというのは、従来の常識からすると異次元のスピードだ。インフラ整備を自前でやっていたら、その期間だけで数週間飛ぶ。

Sentry:バグ検出からPR作成まで一気通貫で

SentryはSeerというデバッグエージェントに、修正コードを書いてPRを開くClaudeエージェントを組み合わせた。開発者はバグの根本原因の分析からそのままレビュー可能な修正まで、一つの流れで受け取れる。この統合は数ヶ月ではなく数週間で構築できた。

エンジニアの立場から見ると、これはかなり刺さる話だ。「何が悪いかはわかった、でも直すのは自分でやれ」から「直したものを持ってきたので確認してください」に変わる。

General Legal(リーガルテック):ツールを都度コーディングして解決

General Legalは、ユーザーのドキュメントや文書から情報を取り出してどんな質問にも答えるシステムを構築した。事前にツールを全部作り込む必要はなく、必要なツールをその場でコーディングして対応できる。開発時間が10分の1になり、UXの改善やデータソース拡充に集中できるようになった。

「想定外の質問が来たらどうする」という問題は、SaaSあるあるだ。Managed Agentsのアプローチでは、エージェントが自分で対応方法を考えてコードを書いてくれるので、事前の網羅的な設計が不要になる。

Asana:AI Teammatesの開発を加速

AsanaはManaged Agentsを使ってAI Teammatesを構築した。Asanaプロジェクトの中で人間と協力しながらタスクをこなし、成果物のドラフトも作るエージェントだ。本来もっと時間がかかったはずの高度な機能を、はるかに速く出荷できた。


競合サービスとの比較

AIエージェント基盤は今、複数のプレイヤーが競っている。Claude Managed Agentsだけが正解とは言い切れないので、主要サービスを横に並べて比べてみる。

サービス 提供元 特徴 向いている用途
Claude Managed Agents Anthropic Claudeに最適化された実行基盤。長時間セッション、マルチエージェント対応 ClaudeベースのB2Bエージェント、長時間タスク
OpenAI Agents SDK OpenAI GPT系モデルに特化。ハンドオフ機能が充実 OpenAIエコシステムに統一したい場合
AWS Bedrock Agents Amazon AWSサービスとの深い統合。既存クラウドインフラへの組み込み AWSを全面採用している企業
Google Vertex AI Agents Google Geminiモデルとの連携。BigQueryやWorkspaceとの親和性 Googleエコシステムが中心の企業
LangChain/LangGraph LangChain モデル非依存。複雑な状態遷移や複数LLM切り替えに強い LLMを使い分けたい、カスタム設計が必要な場合

Anthropicは安全性重視のポジショニングで差別化しているが、企業顧客を獲得するにはサービスの実力と価格の両方を示す必要がある。

Claude Managed Agentsが強みを発揮するシーンは、次のような条件が揃った場合だ。

  • Claudeの性能(特に長文理解や複雑な推論)を活かしたエージェントを作りたい
  • インフラの自前構築に工数をかけたくない
  • 数時間単位の長時間タスクをこなさせたい
  • 本番環境のセキュリティ要件をクリアする必要がある

逆に、複数のLLMを組み合わせたり、既存のAWSインフラにそのまま乗せたい場合は、別の選択肢を検討した方がいいかもしれない。


エンジニアが知っておくべき技術的なポイント

Agent・Environment・Sessionの3層構造

公式ドキュメントでは、Claude Managed Agentsを4つの基本要素で説明している。実際の流れは、まずAgentを作成し、次にEnvironmentを設定し、その組み合わせでSessionを開始するというものだ。セッション中はユーザーからの指示や途中経過がイベントとして記録され、Claudeがツールを呼び出しながら処理を進める。イベント履歴を保持したまま指示を追加したり、途中で処理方針を変えたりできる設計は、単発応答型のAPI利用とは根本的に異なる。

Claude Agent SDKとの関係

「Claude Code SDK」は「Claude Agent SDK」に名称変更された。これは、Claude Codeを支えるエージェントハーネスが、他の多くの種類のエージェントにも活用できることを反映したものだ。

Claude Agent SDKは、Claude Codeの内部エンジンをPythonとTypeScriptのライブラリとして公開したものだ。Claude Code CLIとまったく同じエージェントループ、ツール実行、コンテキスト管理を、プログラムから呼び出せる。従来のClaude API(Anthropic Client SDK)との最大の違いは、ツール実行を自分で実装する必要がない点だ。Client SDKではツールループを自前で書く必要があったが、Agent SDKではClaudeが自律的にファイルを読み、コードを編集し、コマンドを実行する。

つまり構造はこうなっている。

Claude Managed Agents
    └── Claude Agent SDK(実行エンジン)
            └── Claude Code(CLIツール)が内部で使っているのと同じ仕組み

MCPによる外部連携

MCP(Model Context Protocol)は外部サービスとの標準化された統合を提供し、認証とAPI呼び出しを自動的に処理する。カスタム統合コードを書いたり、OAuthフローを自分で管理したりすることなく、エージェントをSlack、GitHub、Googleドライブ、Asanaなどのツールに接続できる。

社内ツールとの連携が多い企業ユースでは、このMCP対応が実用性を大きく左右する。

デバッグとトレースはConsoleで

セッションのトレース、統合分析、トラブルシューティングのガイダンスはClaude Consoleに直接組み込まれているため、すべてのツール呼び出し、判断、失敗箇所を検査できる。

本番環境でエージェントが誤動作したとき、「何を考えてそうしたのか」を追跡できるかどうかは品質管理の上で決定的に重要だ。


注意点と現状の制限

どんなサービスにも弱点がある。Managed Agentsについても、現時点での制限をきちんと把握しておきたい。

まだリサーチプレビューの機能がある

マルチエージェント連携(エージェントが他のエージェントを動かす機能)は、現時点ではリサーチプレビューだ。使いたい場合は別途アクセス申請が必要になる。

コスト計算が複雑になる

通常のAPIトークン料金に加え、セッション実行時間の課金が発生する。エージェントが長時間動き続けるタスクでは、コストの見積もりが難しくなる。待機時間は課金されないが、実際の処理時間は事前予測が難しい。

Claudeモデルに縛られる

当然ではあるが、Managed AgentsはClaude専用だ。GPT-4やGeminiを組み合わせたマルチLLM構成を取りたい場合は、LangChainなどの別フレームワークを検討する必要がある。

公開ベータは変更される可能性がある

現時点では公開ベータであり、APIの仕様や価格体系が変わる可能性がある。プロダクションへの本格導入前には、正式GAを待つかリスクを許容した上で進める判断が必要だ。

自前インフラの方が自由度は高い

マネージドサービスの宿命として、Anthropicのインフラ設計に依存する部分がある。特殊な実行環境や細かいチューニングが必要な場合、自前でエージェントループを書いた方が柔軟になるケースもある。


どう始めるか——導入のステップ

エンジニアが試す場合

Managed AgentsはClaude Platformで公開ベータとして利用できる。ドキュメントを読む、Claude Consoleに直接アクセスする、または新しいCLIを使って最初のエージェントをデプロイする方法がある。また、最新バージョンのClaude Codeとbuilt-in claude-api Skillを使ってManaged Agentsで構築することもできる。「managed agentsのオンボーディングを始めて」と頼むだけで開始できる。

具体的な手順はこうだ。

  1. Claude Platform Consoleにアクセスしてアカウントを作成
  2. ドキュメントのManaged Agentsセクションを確認
  3. agent-quickstartからサンプルを動かして感触を掴む
  4. 自分のユースケースに合わせてAgentの定義をカスタマイズ

ビジネス側が検討する場合

まず「どのタスクをエージェントに任せたいか」を明確にすることから始めるのがいい。候補になりやすいのは次のようなものだ。

  • 毎週決まった手順で行うレポート作成
  • 問い合わせ内容の仕分けと初期対応ドラフト
  • ドキュメントやコードの横断的な調査・要約
  • 複数システムからデータを集めて資料を作る作業

すでに手順が定まっていて、人間がやっても変わらないルーティンワーク——そこがエージェント化の最初の狙い目だ。


まとめ——「作れる」から「速く出せる」への転換点

Claude Managed Agentsは、AIエージェント開発の「ものづくり」の部分を大幅に変える可能性を持っている。

これまでは「エージェントを動かすための土台を作る」作業が、エージェント開発の大半を占めていた。Managed Agentsは、その土台をAnthropicが提供することで、開発者が「エージェントに何をさせるか」という本質的な設計に集中できるようにする。

楽天が「各専門エージェントを1週間でデプロイ」、Sentryが「数ヶ月ではなく数週間で統合を構築」、Vibecodeが「10倍速くインフラを立ち上げられる」と言っている——これらは誇大広告ではなく、インフラの自前構築がいかに時間を食っていたかの裏返しだ。

個人的に面白いと思っているのは、「エージェント専用の実行基盤を用意する」という方向性だ。汎用的なクラウドインフラにAIを乗せるのではなく、エージェントとして動くことを最初から前提に設計されたインフラ。これがモデルの性能を最大限に引き出す鍵になるというのは、実際に内部テストで10ポイントの改善が出ているという話と符合する。

現時点ではまだ公開ベータで、マルチエージェント連携などの機能はリサーチプレビュー段階だ。全機能がそのまま本番で使えるわけではない。ただ、方向性としては明確で、エンタープライズのAIエージェント開発がどこへ向かうのかを示している。

「やってみたいけどどこから始めればいいかわからない」という人は、まずClaude ConsoleのQuickstartを動かしてみるのが最速の近道だと思う。

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