生成AIが就職・採用活動に急速に浸透しています。株式会社i-plugが2026年2月に発表した調査によると、27卒学生の97.7%が生成AIを活用した経験があり、94.6%が「今後も活用したい」と回答しました。わずか2年前の2024年調査では利用率が60.5%だったことを考えると、驚異的な普及速度です。
企業側も約7割が今後の活用に前向きという結果が示す通り、生成AIは就職活動と採用活動の双方で「当たり前のツール」となりつつあります。本記事では、最新の調査データをもとに、生成AIが就活・採用市場にもたらす変化と、IT企業で働くエンジニアやビジネスパーソンが知っておくべき活用法、注意点を詳しく解説します。
- 学生の生成AI活用率、わずか2年で37.2ポイント増加
- 企業側の対応は?採用活動におけるAI活用の現状
- 生成AI活用のメリットと効果
- 生成AI活用の注意点とリスク
- 生成AIを適切に活用するためのベストプラクティス
- 今後の展望:AIネイティブ世代と共に進化する採用市場
- まとめ:生成AIは「使うか使わないか」ではなく「どう使うか」の時代へ
学生の生成AI活用率、わずか2年で37.2ポイント増加
i-plugの調査結果を見ると、学生における生成AI利用の急速な拡大が明確に読み取れます。
生成AI利用率の推移
| 調査年度 | 対象 | 利用率 | 前年比増加 |
|---|---|---|---|
| 2024年 | 25卒学生 | 60.5% | - |
| 2025年 | 26卒学生 | 86.9% | +26.4ポイント |
| 2026年 | 27卒学生 | 97.7% | +10.8ポイント |
この数字が示すように、2024年から2026年の2年間で利用率は37.2ポイント増加しました。もはや「使っていない学生」を探す方が難しい状況です。
マイナビが実施した別の調査では、26卒学生のAI利用率は82.7%で、2年前の39.2%から倍増しています。HR総研の調査でも約8割の学生が就職活動で生成AIを活用していることが明らかになっており、複数の調査が一貫して「学生の8割以上がAIを活用している」という実態を示しています。
さらに注目すべきは、卒業年次が若いほど利用率が高い傾向です。paiza株式会社の調査では、26卒・27卒の利用率が90%を超えるのに対し、29卒は66.5%にとどまっています。つまり、現在の大学1〜2年生にとって、生成AIは「日常的に使うツール」として完全に定着しているのです。
就活のどの場面で使われているのか
i-plugの調査によると、就職活動での生成AI活用率は75.8%に達しており、具体的な活用場面は以下の通りです。
就活における生成AI活用場面(複数回答)
- エントリーシートや履歴書の添削:79.9%
- 自己分析:59.4%
- メール作成:52.8%
- 面接・面談対策:52.2%
マイナビの調査でも、「エントリーシートの推敲」が68.8%で最多となっており、文章作成支援が主な用途であることが分かります。しかし注目すべきは、単なる文章作成だけでなく、自己分析や面接対策といった「思考整理」や「壁打ち相手」としての活用が急増している点です。
HR総研の調査では、2024年6月時点で「自己分析」での活用が43.2%(前年比+13.0ポイント)、「志望動機の作成」が43.4%(同+6.9ポイント)と、さまざまな場面で生成AIが使用されるようになったことが示されています。
企業側の対応は?採用活動におけるAI活用の現状
学生側の利用が進む一方、企業側の対応はどうでしょうか。
企業の生成AI活用率と今後の意向
i-plugの調査では、新卒採用活動で生成AIを「活用している」企業は54.8%でした。学生の97.7%と比較すると低い数字ですが、「今後活用したい」と回答した企業は67.3%に達しており、企業側も生成AIの活用に前向きな姿勢が見られます。
Thinkings株式会社の調査(2023年度実施)では、採用活動でAIツールを活用した企業が43.0%、活用していない企業が53.5%とほぼ半々の結果でした。IT業界に特化したレバテックの調査では、生成AIを導入済みの企業が20.6%、今後導入を検討している企業が36.3%で、合計56.9%がAI採用に前向きという結果が出ています。
企業がAIを活用している具体的な業務
企業側が生成AIを活用している主な業務は以下の通りです。
企業の採用活動におけるAI活用場面
- 自社のPR文作成:69.6%
- 学生へのオファー文作成:69.0%
- 採用課題に対する壁打ち:42.1%
企業側も学生と同様に、文章作成だけでなく「壁打ち」としてAIを活用していることが興味深い点です。その他、以下のような場面でもAI活用が進んでいます。
企業はAI利用をどう見ているか
興味深いのは、企業側の学生のAI利用に対する受け止め方です。
学生がオファー文章にAIを活用することについては、27卒学生の77.7%が「良い」と回答しており、学生側は企業のAI活用を好意的に受け止めています。
一方、企業が学生のエントリーシート作成時のAI活用をどう見ているかというと、「良いと思う」が44.7%、「どちらともいえない」が41.9%で、企業側は慎重な姿勢を見せています。リクルートの「就職白書2025」でも、企業側は「使い方に気を付けたうえで活用してほしい」という意見が4割を超えています。
重要な事実として、企業の97.2%が選考書類においてAI使用を見極める対策を「行っていない」という調査結果があります。これは前年調査の97.9%とほぼ変わらず、学生のAI利用率が急増する一方で、企業側が選考プロセスにおいてAI検知等の具体的な対策や規制を強化する動きはほとんど見られないことを意味しています。
生成AI活用のメリットと効果
学生・企業双方にとって、生成AI活用にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
学生側のメリット
1. 作業時間の大幅短縮
マイナビの調査では、就活でAIを利用する理由として「作業時間の短縮」が62.6%で最多となっています。エントリーシートの下書き作成や添削、企業研究の情報収集など、時間のかかる作業を効率化できます。
2. 文章の質向上
「AIによって自身のアウトプットを改善・改良するため」という理由が58.0%を占めています。自分では気づかない誤りの指摘や、より適切な表現への言い換えなど、文章の質を高めることができます。
3. 思考の整理と深化
自己分析や面接対策での活用が増えている背景には、AIとの対話を通じて自分の考えを整理したり、新たな視点を得たりできる点があります。壁打ち相手として機能することで、一人では気づけなかった自分の強みや志向性を発見できます。
企業側のメリット
1. 採用業務の効率化
書類選考の自動化、問い合わせ対応の24時間自動化、求人票作成の時間短縮など、採用担当者の業務負担を大幅に軽減できます。
2. 公平性の担保
人による選考では無意識のバイアスが入る可能性がありますが、AIを活用することで一定の評価基準に基づいた公平な選考が可能になります。
3. マッチング精度の向上
過去の採用データを分析し、自社で活躍する人材の特性を学習させることで、候補者とのマッチング精度を高めることができます。
生成AI活用の注意点とリスク
メリットがある一方で、生成AI活用には注意すべきリスクも存在します。
学生が注意すべきポイント
1. AIが生成した文章をそのまま使わない
企業の採用担当者は、AIが生成した文章の特徴を見抜けるようになっています。本人しか知らない具体的なエピソードがない、他の応募者と似た表現になっている、といった特徴から判別されます。AIはあくまで補助ツールとして活用し、自分の経験や言葉で語ることが重要です。
2. 誤情報(ハルシネーション)に注意
生成AIは、もっともらしい嘘をつくことがあります。企業情報や業界動向などは、AIの回答を鵜呑みにせず、必ず公式サイトや信頼できる情報源で確認しましょう。
3. 個人情報の入力に注意
生成AIサービスに入力した情報は、学習データとして再利用される可能性があります。住所や電話番号などの個人情報、未公開の研究情報などは入力しないよう注意が必要です。
4. 思考力の低下リスク
AIに頼りすぎると、自分で考える力が低下する可能性があります。面接では「自分の考えや経験が反映されているか」が重視されるため、AIはアイデア出しや壁打ちに留め、最終的な判断は自分で行うことが大切です。
企業が注意すべきポイント
1. AI判断の透明性確保
AIによる自動評価を導入する場合、その判断基準や理由を説明できるようにしておく必要があります。不透明な評価は候補者の不信感を招きます。
2. バイアスと倫理的問題
AIは学習データに含まれる偏見やステレオタイプを反映する可能性があります。性別、人種、学歴などに関する不当な評価が生じないよう、定期的な検証が必要です。
3. 法的リスクへの対応
個人情報保護法やGDPRなどのプライバシー保護規制、著作権法との関係など、法的リスクを理解し、適切なガイドラインを策定する必要があります。総務省・経済産業省が2024年4月に発表した「AI事業者ガイドライン」などを参考にすることが推奨されます。
4. 人間的なコミュニケーションの重視
マイナビの調査では、学生の85.0%が「最終面接は対面面接」を希望しており、AI面接では「受験意欲が下がる」という回答が多数を占めています。重要な選考段階では、人間同士のコミュニケーションを重視することが求められます。
生成AIを適切に活用するためのベストプラクティス
学生・企業双方が生成AIを効果的かつ適切に活用するための実践的なポイントをまとめます。
学生向けベストプラクティス
ステップ1:まずは気軽に試してみる
ChatGPT、Microsoft Copilot、Google Geminiなど、主要な生成AIサービスを実際に使ってみましょう。友人と会話する感覚で、興味のある企業や業界について質問してみることから始めるのがおすすめです。
ステップ2:適切な活用場面を理解する
- ○推奨される活用: 企業研究の情報収集、ES下書き作成、文章の添削、自己分析の壁打ち、面接想定問答の作成
- ×避けるべき活用: AIが生成した文章をそのまま提出、個人情報の入力、すべての思考をAIに委ねる
ステップ3:自分の言葉で仕上げる
AIが生成した内容をベースに、必ず自分の具体的なエピソードや考えを加えましょう。「なぜそう思ったのか」「どんな経験からそう考えるようになったのか」を深掘りすることが重要です。
企業向けベストプラクティス
ステップ1:利用ガイドラインの策定
採用担当者が生成AIを使う際のルールを明確化しましょう。個人情報の取り扱い、AIに任せる業務範囲、最終判断は人間が行うことなどを規定します。
ステップ2:段階的な導入
いきなり全面的にAIを導入するのではなく、求人票作成やオファー文作成など、リスクの低い業務から始めることが推奨されます。効果を検証しながら、徐々に活用範囲を広げていきましょう。
ステップ3:透明性とコミュニケーションの確保
学生に対して、どの選考段階でAIを活用しているかを明示することで、信頼関係を構築できます。また、AIによる一次評価の後に人間による再審査を行うなど、公平性を担保する仕組みを整えましょう。
今後の展望:AIネイティブ世代と共に進化する採用市場
paizaの調査が示すように、現在の学生は「AIネイティブ世代」です。彼らにとってAIは特別なツールではなく、検索エンジンやスマートフォンと同じように「当たり前に使うもの」です。
この世代の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 高いAIリテラシー: AIの得意・不得意を理解し、適切に使い分けられる
- 効率重視: 時間をかけるべき部分と自動化すべき部分を見極められる
- 継続的な学習: 新しいツールや技術を積極的に取り入れる姿勢
企業側にとって重要なのは、このAIネイティブ世代の能力を適切に評価し、活かせる環境を提供することです。「AIを使うこと」自体を問題視するのではなく、「AIをどう使いこなすか」「AIと協働してどんな価値を生み出せるか」という視点で人材を評価することが求められます。
リクルートの「就職白書2025」では、採用充足企業の特徴として「働き方の制度の情報提供」や「キャリア相談制度の充実」が挙げられています。AIツールの活用を含めた業務効率化の取り組みや、社員の成長を支援する制度の整備が、優秀な人材の獲得につながることが示唆されています。
まとめ:生成AIは「使うか使わないか」ではなく「どう使うか」の時代へ
本記事で見てきたように、生成AIは就職・採用活動において既に「標準ツール」となっています。学生の94.6%が今後も使いたいと答え、企業の67.3%が活用に前向きという数字が示すように、この流れは不可逆的です。
重要なのは、生成AIを「使うか使わないか」ではなく、「どう適切に使うか」です。学生にとっては、AIを補助ツールとして活用しながら、自分の言葉で語れる準備をすること。企業にとっては、AIの効率性を活かしつつ、人間的なコミュニケーションと公平性を確保することが求められます。
AI活用のための5つの原則
- 透明性: AIの活用範囲と判断基準を明確にする
- 補完性: AIはあくまで補助ツール、最終判断は人間が行う
- 継続的学習: 新しい技術やガイドラインを常にアップデートする
- 倫理性: バイアスや差別的評価が生じないよう検証する
- 個別性: 自分の言葉、自社の文化を大切にする
生成AIという強力なツールを手にした今、IT企業で働くエンジニアやビジネスパーソンには、この技術を正しく理解し、適切に活用するリテラシーが求められています。今後も進化し続けるAI技術と共に、より効率的で公平な採用市場の実現に向けて、一人ひとりが責任ある活用を心がけていきましょう。