「このスライド、専門用語だらけで何が言いたいのか全然頭に入ってこない……」 「複雑な構成図が貼ってあるけど、矢印が多すぎて処理の流れが追えない……」
IT企業で働いていると、そんな経験はありませんか? 新しいプロジェクトのキックオフ資料や、技術チームから共有された仕様書。そこには、当たり前のように業界特有の略語(ジャーゴン)や、作成者だけが理解している複雑なロジックが詰め込まれていることがよくあります。
それを読み解くために、いちいちブラウザを開いて用語を検索したり、前後のスライドを行ったり来たりして文脈を確認したり。資料を「理解する」という作業だけで、気づけば30分、1時間と貴重な時間が溶けていく——。これは、私たちビジネスパーソンにとって非常に大きなストレスであり、生産性を下げる要因の一つです。
しかし、そんな悩みが過去のものになるかもしれません。 Microsoft PowerPointに、まさに私たちの「理解」を助けるための救世主、新機能「Explainer(エクスプレイナー)」が追加されました。
これは、従来の生成AI機能によくある「全体の要約」とは一味違います。まるで、その資料を作った本人が隣に座って、「ここはつまり、こういう意味なんですよ」と指を差して教えてくれるような、そんな体験を提供してくれる機能なのです。
今回は、SEOとコンテンツマーケティングのプロであり、日々大量のドキュメントと格闘している筆者が、この新機能「Explainer」の全貌と、明日から業務ですぐに使える具体的な活用テクニックを徹底解説します。AI初心者の方でも安心して使えるよう、専門用語は噛み砕いて説明しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
- そもそも「Explainer」ってどんな機能?Copilotとの違いは?
- たったの2ステップ!「Explainer」の超シンプルな使い方
- これで業務効率化!「Explainer」の現場で使える活用シーン2選
- 生成AIが変える「資料作成」と「理解」の未来
- まとめ:まずは身近な資料で「右クリック」してみよう
そもそも「Explainer」ってどんな機能?Copilotとの違いは?
まずは、今回追加された「Explainer」という機能が、一体何者なのかを整理しましょう。
一言で言えば、「スライド内の特定の要素(テキスト、図、表など)を、AIが文脈に合わせて解説してくれる機能」です。
これまでも、Microsoft 365 Copilotなどの生成AIを使えば、「プレゼン全体の要約」や「スライドの作成」は可能でした。しかし、これらはあくまで「全体像」を掴むためのものであり、「このスライドの、この図の、この矢印の意味がわからない!」というような、ピンポイントな疑問には答えにくい側面がありました。
「Explainer」は、その名の通り「説明(Explain)」に特化したツールです。
従来の「要約」機能との決定的な違い
従来の「要約(Summarize)」と、今回の「解説(Explain)」の最大の違いは、「解像度の高さ」と「インタラクティブ性」にあります。
- 従来の要約(Summarize):
- 対象:プレゼンテーションファイル全体、あるいはスライド1枚全体。
- 出力:「この資料は、主に〇〇について書かれています」というサマリー。
弱点:細かい図表のニュアンスや、特定の専門用語の定義までは拾いきれないことがある。
今回の解説(Explainer):
- 対象:ユーザーが選択した「特定のオブジェクト(テキストボックス、図形、表など)」。
- 出力:「この図は、〇〇というデータの相関関係を示しており、特に△△の部分で急激な変化が起きていることを表しています」といった詳細な説明。
- 強み:ユーザーが「ここが分からない」と思った箇所をピンポイントで深掘りできる。
複雑な図表や略語への対応力がすごい
特に注目すべきは、IT業界の資料によくある「複雑怪奇なシステム構成図」や「略語の羅列」への対応力です。
ニュースリリースや先行レビューによると、このExplainerは、専門分野(科学、医学、そしてもちろんIT技術)のスライドに含まれる難解なトピックの解説を得意としています。
例えば、サーバーとクライアント、データベースが複雑に線で結ばれたシステム構成図があるとします。その図を選択してExplainerを実行すると、AIは単に図の形を認識するだけでなく、スライド内のテキストや前後の文脈を読み取り、「ユーザーが操作を行うと、リクエストがロードバランサーを経由してサーバーAに届く流れを示しています」といったように、意味的な解説を行ってくれるのです。
これは、単なる画像認識を超えた、生成AIならではの「文脈理解力」が成せる技と言えるでしょう。
たったの2ステップ!「Explainer」の超シンプルな使い方
「でも、AI機能って使い方が難しそう……」「プロンプト(指示文)を書くのが面倒くさい」と感じている方も多いのではないでしょうか?
安心してください。Explainerの最大の特徴は、「プロンプト不要」である点です。チャット画面を開いて、「この図について説明して」と入力する必要すらありません。
操作は、驚くほどシンプルです。
直感的な操作フロー
使い方は、以下の2ステップだけです。
- 選択する: スライドの中で、説明してほしいオブジェクト(テキストボックス、表、画像など)をクリックして選択状態にします。
- 右クリックする: メニューが表示されるので、その中にある「Explain(説明)」をクリックします。
たったこれだけです。 すると、画面の右側にCopilotのサイドペイン(専用のウィンドウ)が開き、そこにAIが生成した解説文が瞬時に表示されます。
実際の挙動と「文脈」の力
例えば、あなたが「KPI」という単語が入ったグラフを選択して「Explain」を実行したとします。 AIは、一般的な「KPI(重要業績評価指標)」の辞書的な意味を表示するだけではありません。そのスライドのタイトルが「2025年度 第3四半期 マーケティング報告」であれば、「このグラフは、今期のマーケティング施策におけるWebサイト訪問者数の推移(KPI)を示しており、特に11月のキャンペーン後に目標を達成していることを表しています」というように、その資料に特化した(パーソナライズされた)解説をしてくれるのです。
これが、Google検索で単語を調べるのとは全く異なる体験を生み出します。「一般的になんとなくこういう意味」ではなく、「この資料においてはこういう意味」という答えが返ってくるため、即座に業務に活かせる情報となるのです。
利用に必要な条件
現時点(2025年12月)での情報によると、この機能を利用するためには以下の環境が必要です。
- ライセンス: Microsoft 365 Copilot(企業向けライセンス)
- アプリケーション: デスクトップ版のPowerPoint(Windows版 または Mac版)の最新バージョン
- ※Web版での対応状況については、順次アップデートを確認する必要があります。
もし、会社のPCにCopilotが入っているなら、今すぐPowerPointを開いて右クリックしてみてください。もしメニューが出てこない場合は、アプリの更新が必要かもしれません。
これで業務効率化!「Explainer」の現場で使える活用シーン2選
機能の概要がわかったところで、具体的に私たちの日常業務でどう活用すればいいのか、2つのシーンに分けて解説します。実はこれ、「資料を読むとき」だけでなく、「資料を作るとき」にも強力な武器になるんです。
【シーン1:受信者として】他部署からの技術資料を瞬時に理解する
これが最もオーソドックス、かつ効果絶大な使い方です。
状況: あなたは営業担当です。開発部門から「新製品の仕様変更に関する説明資料」が送られてきました。スライドを開くと、そこには見慣れないアルファベット3文字の略語(API, SDK, AWS...)や、複雑に入り組んだフローチャートが並んでいます。「うっ……」と拒否反応が出る瞬間です。
Explainerによる解決・改善策:
- 略語の壁を突破する: 分からない単語が含まれているテキストボックスを右クリックして「Explain」。AIが文脈に沿って、「ここでのSDKは、顧客が自社アプリに機能を組み込むための開発キットのことです」と教えてくれます。
- 図解の意図を汲み取る: 複雑なフローチャート全体を選択して「Explain」。AIが「この図は、ユーザー認証が失敗した場合のエラー処理の流れを示しています。特に赤枠の部分は、セキュリティリスクへの対策を表しています」と要約解説してくれます。
効果: これまでは、詳しいエンジニアを捕まえて「これどういう意味?」と聞いたり、自分で長時間かけて調べたりしていた時間がゼロになります。会議前の予習が5分で終わり、会議本番では「用語の意味」ではなく「ビジネスへの影響」という本質的な議論に集中できるようになります。
【シーン2:作成者として】自分の資料をAIに「ダメ出し」してもらう(品質改善)
こちらは、少し応用的な使い方ですが、資料作成のスキルアップに非常に効果的です。いわゆる「セルフレビュー(壁打ち)」への活用です。
状況: あなたは来週の役員会議に向けて、プロジェクトの進捗報告資料を作っています。自分では完璧に作ったつもりですが、専門外の役員たちに、この複雑な技術的課題が正しく伝わるか不安です。
Explainerによる解決・改善策:
- AIを「初見の読者」に見立てる: 自分が作ったスライドの中で、一番説明が難しい図やグラフを選択し、あえて自分で「Explain」を実行してみます。
- 解説内容をチェックする: AIが出力した解説文を読んでみましょう。もし、AIの説明があなたの意図と違っていたり、AIですら「この図は〇〇と推測されますが、詳細は不明です」といった曖昧な説明しかできなかったりした場合、それは「資料そのものの情報不足や論理構成の不備」である可能性が高いです。
効果: 「AIが正しく解説できる=論理が通っている分かりやすい資料」という一つの指標になります。 AIがうまく説明できなかった部分に対して、「ラベルを追加する」「矢印の向きを変える」「補足テキストを入れる」といった改善を行うことで、結果的に人間にとっても分かりやすい、高品質な資料にブラッシュアップすることができます。
上司にレビューを頼む前に、まずはAIにレビューしてもらう。これだけで、資料の戻し回数は劇的に減るはずです。
生成AIが変える「資料作成」と「理解」の未来
今回の「Explainer」の登場は、私たちがOfficeソフトとどう付き合っていくかという点で、大きな転換点を示唆しています。
「作るAI」から「理解を助けるAI」へのシフト
これまでの生成AI(Copilotなど)の話題は、「いかに楽に資料を作るか(生成するか)」にフォーカスされがちでした。「タイトルを入れるだけでスライドが完成!」といった機能は確かに魅力的です。
しかし、ビジネスの現場では、「資料を作っている時間」と同じくらい、あるいはそれ以上に「他人の資料を読んでいる時間(理解しようとしている時間)」が長いはずです。メールに添付されたPDF、共有されたスライド、過去の議事録……。私たちは日々、情報の洪水に溺れています。
Explainerは、この「情報のインプット」にかかるコストを大幅に下げるためのツールです。 人間がすべての情報をゼロから脳内で処理するのではなく、AIが一度噛み砕き、消化しやすい形にして人間に渡す。これにより、私たちの脳の「認知負荷(Cognitive Load)」が下がり、空いたリソースを「意思決定」や「創造的なアイデア出し」に使えるようになります。これこそが、AI時代における真の業務効率化ではないでしょうか。
今後求められるのは「AIに正しく解説される資料」を作るスキル
また、逆説的ですが、これからは「AIにとって読みやすい資料を作るスキル」も重要になってくるでしょう。
Explainerのような機能が普及すると、読み手の多くはAIを使って資料を読み解くようになります。その時、テキストデータになっていない画像化された文字や、論理が破綻している図解は、AIが正しく認識できず、結果として読み手にも誤った情報が伝わってしまうリスクがあります。
- 画像ではなくテキストボックスを使う
- 図形の構造(グループ化やコネクタの接続)を正しく設定する
- Alt属性(代替テキスト)を意識する
こうした、いわゆる「アクセシビリティ」に配慮した資料作成は、人間にとってもAIにとっても「分かりやすい資料」の条件となります。これからのIT人材には、AIを活用するだけでなく、AIと共存するためのドキュメンテーション能力も求められていくでしょう。
まとめ:まずは身近な資料で「右クリック」してみよう
新機能「Explainer」について、その仕組みから活用法、そして未来の働き方への影響まで解説してきました。
ポイントを振り返りましょう。
- Explainerは「分からない」をピンポイントで解決する: 全体要約ではなく、特定の図やテキストを文脈に合わせて解説してくれる。
- 操作は超簡単: プロンプト不要。選択して右クリックするだけ。
- 読み手にも作り手にもメリットがある: 他人の資料を瞬時に理解するだけでなく、自分の資料の分かりやすさをチェックするツールとしても使える。
生成AIと聞くと、「何かすごいことを命令しなきゃ」と身構えてしまう方もいるかもしれません。でも、このExplainerは、あなたの日常の「ちょっと分からない」「読むのが面倒」という小さなストレスを解消してくれる、とても身近で実用的な機能です。
【Next Action:明日からできること】
まずは明日、職場でPowerPointを開き、過去に自分が作った資料や、共有フォルダにある少し難しそうな資料を開いて、適当な図を「右クリック」→「Explain」してみてください。
「へえ、AIにはこう見えているのか!」という発見が必ずあるはずです。その小さな驚きこそが、AIを業務で使いこなすための第一歩です。ぜひ、あなたのPCで新しい「資料体験」を味わってみてください。