「ねぇ、読書感想文、どうなったの?」
夏休みも中盤に差しかかる頃、平和だった家庭に静かに、しかし確実に忍び寄ってくるラスボス…そう、読書感想文。
「うーん、あとでやる…」 「何を書けばいいかわからない…」 「『おもしろかった』しか思うことないもん…」
真っ白な原稿用紙を前にフリーズする我が子。 かたや、日に日に増していく親の焦り。
「いつやるの!もう8月も後半だよ!」 「あらすじだけ書いてもダメだって言ったでしょ!」 「どうしてうちの子は、自分の気持ちを言葉にできないんだろう…」
気づけば、毎年のように読書感想文が原因で親子ゲンカが勃発。楽しいはずの夏休みに、気まずい空気が流れる…。
もし、あなたが今、少しでも「これ、うちのことだ…」と感じたなら、どうかご安心ください。 それは、お子さんの国語力が低いわけでも、表現力が乏しいわけでもありません。ましてや、あなたの育て方が間違っているなんてことは、決してありません。
子どもは、自分の心の中にある「面白い」や「すごい」という気持ちを、どうやって言葉という乗り物に乗せて、原稿用紙という目的地まで運べばいいのか、その方法を知らないだけなのです。
この記事では、そんなお子さんの心を優しくノックし、溢れ出す本音や素敵な感想を「言葉」として引き出す”魔法の質問術”をご紹介します。
この方法を実践すれば、「書きなさい!」というイライラが、「へぇ、そんなこと感じてたんだ!」という親子の笑顔の対話に変わります。読書感想文という宿題が、お子さんの成長を発見できる、かけがえのないコミュニケーションの時間になるはずです。
今年の夏こそ、読書感想文との戦いに終止符を打ちましょう!
- 第1章:なぜうちの子は書けないの?子どもの「書けない」3つの理由
- 第2章:親の役割は”コーチ”。答えを引き出すための3つの心構え
- 第3章:【超・実践編】子どもの本音が溢れ出す!魔法の質問10選(会話例付き)
- 第4章:準備はOK!「言葉のかけら」を感想文に組み立てる3ステップ
- まとめ:読書感想文は、親子の絆を深める最高のチャンス
第1章:なぜうちの子は書けないの?子どもの「書けない」3つの理由
魔法の質問術をご紹介する前に、まずは敵(?)である「書けない理由」を知ることから始めましょう。親が子どもの気持ちを理解することが、サポートの第一歩です。
理由1:「感想」という言葉が壮大すぎる
大人にとって「感想」とは、評価や分析、意見などを含んだ複雑なものかもしれません。しかし、子どもにとって「どうだった?」と聞かれた時の答えは、シンプルに「面白かった」「つまらなかった」「すごかった」の3択くらいしか用意されていないことが多いのです。
それは、ボキャブラリーが少ないからではありません。 「面白かった」という大きな感情の箱の中に、「主人公の勇気にドキドキした」「意外な結末にワクワクした」「悲しいお別れに胸がギュッとなった」といった、細かくてキラキラした感情のかけらが入っているのに、そのかけらを一つひとつ取り出して名前を付ける作業に慣れていないだけなのです。
理由2:ゴールまでの道のり(構成)が分からない
「あらすじは書いちゃダメ」 これは、子どもたちが学校の先生や親からよく言われる言葉です。
では、あらすじを書かずに、一体何を書けば原稿用紙が埋まるのでしょうか?子どもは途方に暮れています。 いきなり「はじめ・なか・おわりで書きなさい」と言われても、それぞれのブロックに何を入れたらいいのか、全く見当がつかないのです。
これは、地図もコンパスも持たされずに「さぁ、あの山頂まで登ってごらん!」と言われているようなもの。登る気力が湧かないのも当然です。
理由3:自分の意見に自信がない
特に少し繊細なお子さんや、周りの目を気にするタイプのお子さんは、「こんなこと書いたら、変に思われるかな?」「先生に『そんなことじゃない』って言われたらどうしよう」と、自分の考えを表現することにブレーキをかけてしまうことがあります。
感想に「正解」はないはずなのに、いつの間にか「正解の感想」を探してしまう。これは、子どもが成長している証でもありますが、読書感想文においては高いハードルになってしまいます。
これらの理由を抱えた子どもに、親が「早く!」「なんで書けないの?」というプレッシャーをかけるのは、残念ながら逆効果。お子さんの心をさらに固く閉ざしてしまいます。 私たちがやるべきは、プレッシャーではなく、安心感を与えるサポートなのです。
第2章:親の役割は”コーチ”。答えを引き出すための3つの心構え
さぁ、ここからが本題です。 読書感想文のサポートにおいて、親の役割は「答えを教える先生」ではありません。お子さんの心の中にある答えを、対話を通じて一緒に見つけてあげる「コーチ」です。
コーチとして”魔法の質問術”を実践する前に、まず大切にしてほしい3つの心構えがあります。
① 全肯定!まずは「そうなんだ!」で受け止める
お子さんがどんなに拙い言葉でも、トンチンカンに聞こえる意見を言ったとしても、絶対に否定しないでください。「へぇ、そう思ったんだ!」「なるほどね!」と、まずは丸ごと受け止めてあげましょう。 「ここは安全な場所だ」「何を言っても大丈夫だ」とお子さんが感じることが、本音を引き出すための最も重要な土台になります。
② 沈黙は「考えている」サイン。答えを急かさない
質問を投げかけた後、お子さんが黙り込んでしまうことがあるかもしれません。でも、焦って次の質問をしたり、「分からないの?」と聞いたりするのはNGです。 その沈黙は、お子さんの頭がフル回転している証拠。心の中の言葉を探している大切な時間です。 親はゆったりと構え、お子さんが言葉を発するのを待ちましょう。お茶でも飲みながら、リラックスした雰囲気を作ってあげてください。
③ 「なんで?」ではなく「どうしてそう思ったの?」で深掘り
お子さんの答えに対して、さらに考えを深めてもらうための深掘りはとても有効です。 ただし、詰問するような「なんで?」ではなく、純粋な興味としての「どうしてそう思ったの?」「もう少し詳しく教えてくれる?」というスタンスを心がけましょう。 親が自分の感想に興味を持ってくれていると感じることで、子どもはもっと話したくなるものです。
この3つの心構えを意識するだけで、親子の対話の質は劇的に変わります。
第3章:【超・実践編】子どもの本音が溢れ出す!魔法の質問10選(会話例付き)
お待たせしました! いよいよ、お子さんの感想を具体的に引き出す”魔法の質問術”をご紹介します。 お子さんが読んだ本の内容や、お子さんの性格に合わせて、使えそうなものから試してみてください。 ここでは、具体的な会話例と、その会話をどう感想文に活かすかまでをセットで解説します。
魔法の質問1:【登場人物と友だちになろう】
「この本に出てきた人の中で、一番『友だちになりたいな』と思ったのは誰だった? もしその人がクラスにいたら、どんなふうに話しかける?」
質問の狙い: 単に「好きな登場人物」を聞くのではなく、「友だちになる」という自分事の視点を持たせることで、登場人物への共感や魅力を具体的に引き出します。
具体的な会話例:
親: 「この『おしいれのぼうけん』に出てくるさとしとあきら、どっちと友だちになってみたい?」
子: 「うーん、さとしかな。」
親: 「へぇ、さとし!どうして?」
子: 「だって、最初は怖がりだったけど、ねずみばあさんからあきらを守ろうとしてて、勇気があるから。」
親: 「たしかに!あの場面はすごかったね。もし君がさとしの立場だったら、あんなふうに前に出られたと思う?」
子: 「うーん、怖いけど…でも友だちのためなら頑張るかも…。」感想文への活かし方: この会話は、感想文の素晴らしい「書き出し」や「中心部分」になります。
(例文) ぼくがこの本を読んで一番心に残ったのは、主人公のさとしの勇気です。もしぼくがさとしのクラスメートだったら、絶対に友だちになりたいと思いました。なぜなら、さとしは最初は怖がりだったのに、親友のあきらを守るために、こわいねずみばあさんに立ち向かっていったからです。ぼくだったら、怖くて足がすくんでしまうかもしれません。でも、さとしの姿を見て、本当の勇気とは、こわい気持ちを乗りこえてでも、大切な人を守ろうとすることなのだと分かりました。
魔法の質問2:【心の温度計を見てみよう】
「お話の中で、君の心が一番動いたのはどこかな? 『やったー!』って嬉しくなったり、『ドキドキ』したり、『悲しいな…』とか、心の温度計の針が一番大きく振れた場面を教えて。」
質問の狙い: 「面白かった」という漠然とした感情を、「嬉しい」「ドキドキ」「悲しい」といった具体的な感情に分解させ、どの場面でそう感じたのかを特定させます。
具体的な会話例:
親: 「この『スイミー』を読んでて、心の温度計が一番動いたのはどこだった?」
子: 「やっぱり、最後のところ!」
親: 「最後のところ?もう少し詳しく教えて。」
子: 「スイミーが『ぼくが目になろう』って言って、みんなで大きな魚のふりをして、大きなマグロを追い出したところ!『やったー!』って思った!」
親: 「わかる!スカッとしたよね!どうしてそこが一番『やったー!』って思ったの?」
子: 「だって、それまでみんな隠れてばかりだったのに、スイミーのアイデアで、みんなで力を合わせたら大きな敵にも勝てたから。すごいなって思った。」感想文への活かし方: 物語のクライマックスと、それに対する自分の感情を結びつける、感想文の王道パターンを作ることができます。
(例文) 私がこの物語の中で一番心が動いたのは、小さな魚たちがみんなで力を合わせ、大きなマグロを追い出した場面です。スイミーが「ぼくが目になろう」と言った時、私の心はとてもワクワクしました。今まで大きなマグロにおびえて隠れてばかりだった仲間たちが、たった一匹のスイミーの知恵と勇気で、自分たちより何倍も大きい敵に打ち勝ったからです。この場面を読んで、一人ではできないことでも、みんなで協力すれば乗り越えられるんだということを強く感じました。
魔法の質問3:【もしも君が主人公だったら?】
「もし君が主人公の〇〇(登場人物名)だったら、あの場面でどうしたと思う? 主人公と同じことをしたかな?それとも、違うことをしてみたかった?」
質問の狙い: 物語をただ読むだけでなく、「自分ならどうするか」という主体的な視点を持たせます。主人公の行動と自分の考えを比べることで、自分の価値観や性格について考えるきっかけになり、感想文に深みが出ます。
具体的な会話例:
親: 「『泣いた赤おに』、悲しいお話だったね。もし君が、友達の赤おにのために自分も悪者になる青おにの立場だったら、同じことをしたと思う?」
子: 「うーん…。難しいな。赤おにには人間と仲良くなってほしいけど…。」
親: 「けど?」
子: 「自分が赤おにと会えなくなるのは、すごく寂しいと思う。だから、青おにみたいに黙っていなくならないで、ちゃんと手紙じゃなくて、直接『実はこうなんだ』って話すかもしれない。」
親: 「なるほど!正直に話すんだね。それも一つの優しさだね。そうしたら、赤おにはなんて言うかな?」感想文への活かし方: 「もし私が〜だったら」という仮定法は、自分の意見を明確にするための強力な武器になります。
(例文) もし私が青おにだったら、赤おにのために同じ行動はできなかったかもしれません。もちろん、大好きな友達に幸せになってほしいという気持ちは青おにと同じです。でも、自分が悪者になって、もう二度と会えなくなるのはあまりにも悲しすぎるからです。私だったら、人間たちをだますのではなく、赤おにの優しさを分かってもらえるように、一緒に人間たちにお願いに行く方法を考えたと思います。本当の友情とは何か、深く考えさせられるお話でした。
魔法の質問4:【心に残ったキラリと光る言葉】
「登場人物が言っていた言葉で、一番『なるほどな』とか『かっこいいな』と思ったセリフはあった? なんでその言葉が心に残ったんだろう?」
質問の狙い: 物語の中に散りばめられた、作者が伝えたかったであろうメッセージやテーマを、お子さん自身の「発見」として引き出します。心に響いた言葉をフックにすることで、漠然とした感想がシャープになります。
具体的な会話例:
親: 「この『星の王子さま』、ちょっと難しかったかもしれないけど、何か心に残った言葉はあった?」
子: 「キツネが言ってた、『かんじんなことは、目に見えない』っていう言葉かな。」
親: 「へぇ、一番かんじんなことは、目には見えない。どうしてその言葉が気になったの?」
子: 「うーん。王子さまはバラがきれいだから大切にしてたけど、本当は、お水をあげたり、風よけをつけたりした『時間』が大切だったってことかなって。」
親: 「すごい!その通りだね!目に見えるきれいさだけじゃなくて、目に見えないお世話とか気持ちが大切なんだね。」感想文への活かし方: 印象的なセリフを引用し、それについて自分の解釈を述べることで、感想文がぐっと本格的になります。
(例文) この本の中で、私の胸に一番突き刺さったのは、キツネが王子さまに言った「かんじんなことは、目に見えないんだよ」という言葉です。初めは意味がよく分かりませんでしたが、読み進めていくうちに、見た目の美しさや、お金で買えるものよりも、誰かのために使った時間や、相手を思う気持ちといった、目には見えないものこそが本当の宝物なのだと気づきました。これからは、私も目に見えるものだけで判断せず、その裏にある人の気持ちを考えられるようになりたいです。
魔法の質問5:【本の魔法にかかったかな?】
「この本を読む前と、全部読み終わった後で、何か気持ちや考え方が変わったことはある? 例えば、〇〇について、前はこう思ってたけど、今はこう思う、みたいなこと。」
質問の狙い: 読書の最大の価値である「内面的な変化」や「新しい発見」にお子さん自身が気づくのを手伝います。読書を通じて自分が成長したことを実感でき、自己肯定感にも繋がります。
具体的な会話例:
親: 「この野口英世の伝記を読む前と後で、何か気持ちは変わった?」
子: 「うん。読む前は、ただのすごいお医者さんだと思ってた。」
親: 「今はどう思う?」
子: 「小さい時に大やけどをして、手が不自由だったのに、それを言い訳にしないで、誰よりも努力して夢をかなえたのがすごいと思った。あと、お母さんがすごく応援してくれたから頑張れたんだなって。」
親: 「なるほどね。『あきらめない心』と『支えてくれる人の大切さ』に気づいたんだね。」感想文への活かし方: 読書前後の変化(Before/After)を書くことは、感想文の「まとめ」に最適です。成長した自分をアピールできます。
(例文) この本を読むまで、私は困難なことに出会うとすぐに「どうせ無理だ」とあきらめてしまうことがありました。しかし、大やけどという大きなハンデを乗りこえて世界的な医学者になった野口英世の生き方を知り、自分の考えがとても恥ずかしくなりました。彼が何度も失敗しながら研究を続けたように、大切なのは結果だけでなく、あきらめずに努力し続けることなのだと学びました。これからは、難しいことにも挑戦する勇気を持とうと思います。この本は、私に「挑戦する心」を教えてくれました。
魔法の質問6:【作者さんにインタビュー!】
「もし、この本を書いた作者さんに会ってお話できるとしたら、どんなことを質問してみたい? 『どうしてこのお話を書いたんですか?』とか、何でもいいよ。」
質問の狙い: 読者の視点から一歩引いて、物語の作り手である「作者」の意図を想像させます。これにより、物語をより客観的に、深く読み解く力が養われます。ユニークな視点は、他の人とは違う感想文を書くきっかけになります。
具体的な会話例:
親: 「この『注文の多い料理店』、ちょっと怖かったね。もし作者の宮沢賢治さんに会えたら、何を聞いてみたい?」
子: 「どうして、二人の紳士は助かったんですか?って聞きたい。あんなに失礼だったのに。」
親: 「たしかに!結局食べられずに帰れたもんね。君はどうして助かったんだと思う?」
子: 「うーん、本当は怖いお話だけど、作者さんが『自分のことしか考えないと、痛い目にあうよ』ってことを、ちょっと面白く教えたかったのかな…。」
親: 「なるほど!教訓を伝えたかったのかもね。面白い考えだね!」感想文への活かし方: 「作者はなぜ~したのでしょうか」と問いを立て、自分なりの答えを探す形式は、読み手の興味を引きます。
(例文) 私はこの本を読み終わった時、一つの疑問が頭に浮かびました。それは、「作者はなぜ、自分勝手な二人の紳士を最後には助けてあげたのだろうか」ということです。私だったら、反省させるために、もっと怖い目にあわせていたかもしれません。でも、考えていくうちに、作者は本当に怖い思いをさせたいのではなく、「相手の気持ちを考えず、自分の利益ばかり追いかけていると、知らず知らずのうちに自分が食べられてしまうような危険な道に入ってしまうよ」という警告を、私たち読者に伝えたかったのではないかと思いました。
魔法の質問7:【君だけの続きのお話】
「このお話の続きを、君が自由に考えてみていいよって言われたら、登場人物たちはこの後どうなると思う? どんな冒険が待ってるかな?」
質問の狙い: 物語の世界にお子さんの想像力を羽ばたかせます。自由に物語を創造する楽しさを感じさせ、書くことへのポジティブなイメージを育てます。この質問から出てきたアイデアは、オリジナリティあふれる感想文の「まとめ」になります。
具体的な会話例:
親: 「『エルマーのぼうけん』、面白かったね!りゅうの子と島を脱出した後、エルマーはどうなったと思う?」
子: 「きっと、自分のうちに帰ったけど、またりゅうの子に乗って、今度は空の冒険に出かけると思う!」
親: 「いいね、空の冒険!どんな場所に行くだろう?」
子: 「雲の上にある、ふわふわのお菓子の国とか!でもそこには意地悪な雲の王様がいて、また知恵と工夫でやっつけるんだ!」
親: 「わー、そのお話も読んでみたいなぁ!」感想文への活かし方: 物語の続きを想像することで、登場人物への愛情や、物語のテーマへの理解を示すことができます。
(例文) りゅうの子を助け、ぶじに家に帰ったエルマー。でも、彼の冒険はきっとまだ終わらないと思います。私は、エルマーがまたこっそりとりゅうの子に会いに行き、今度はまだ誰も知らない新しい世界へと旅立つお話の続きを想像して、とてもワクワクしました。エルマーのすごいところは、腕力ではなく、知恵と勇気、そして相手を思いやる優しい心で困難を乗りこえていくところです。私もエルマーのように、これから出会う様々な問題に対して、頭と心を使って乗りこえていける人になりたいです。
魔法の質問8:【どんな色?どんな音?】
「一番心に残っている場面をもう一度思い出してみて。そこは、どんな色が見えるかな? どんな音や声が聞こえてきそう? どんな匂いがするかな?」
質問の謎: 文字情報として読んだ物語を、五感を使ったリアルな「映像」として頭の中に再構築させます。これにより、感想文の情景描写が格段に豊かで、生き生きとしたものになります。
具体的な会話例:
親: 「『モチモチの木』で、豆太がおじいさんのために、一人で夜の道を走っていく場面、すごかったね。あの時、豆太にはどんな景色が見えてたかな?」
子: 「真っ暗だと思う。風の音が『ビュービュー』って聞こえて、すごく寒そう。」
親: 「そうだね。モチモチの木はどうだった?」
子: 「お月様にてらされて、キラキラ光って見えたって書いてあった。きっと雪が積もってて、ダイヤモンドみたいだったと思う。」
親: 「うわー、きれいだろうね!でも、豆太の心臓の音は『ドクドク』って大きく聞こえてたかもね。」感想文への活かし方: 五感を使った描写を入れることで、読んでいる人もその場にいるかのような臨場感を味わえます。
(例文) 私が一番印象に残っているのは、豆太がたった一人で医者を呼びに行く場面です。豆太の周りは、きっとシンとした闇に包まれ、冷たい風の音だけが聞こえていたと思います。怖くてたまらなかったはずなのに、大好きなじさまを助けたい一心で走り出す豆太の姿を想像すると、胸が熱くなりました。そして、いつもは怖くて見られなかったモチモチの木が、その晩は月あかりをあびてキラキラと輝いていたという描写は、まるで豆太の勇気をたたえているようで、とても美しく感じました。
魔法の質問9:【この本、誰におすすめしたい?】
「この本の面白さを、まだ読んでいないお友だちや家族の誰かに伝えるとしたら、誰に読んでほしい? その人に、この本のどんなところが面白いって伝える?」
質問の謎: 自分の中だけで完結していた感想を、「人に伝える」という視点で再編集させます。本の魅力を客観的に分析し、要点をまとめる良い訓練になります。
具体的な会話例:
親: 「この『かわいそうなぞう』、もし誰かにおすすめするとしたら、誰に読んでほしい?」
子: 「うーん…おじいちゃんかな。」
親: 「へぇ、おじいちゃん。どうして?」
子: 「おじいちゃんは戦争を知らないから。戦争になると、人間だけじゃなくて、動物園の優しいぞうさんまで殺されちゃうくらい、悲しいことなんだよって知ってほしいから。」
親: 「そうか…。この本の悲しさを共有したいんだね。おじいちゃん、きっと真剣に聞いてくれるね。」感想文への活かし方: 「この本を〇〇な人に勧めたい」という形で書くことで、自分が本から何を学び、何を伝えたいのかが明確になります。感想文のまとめとしても、非常に効果的です。
(例文) 私はこの本を、戦争がどれだけ悲しいものかを知らない、私と同じくらいの年の子どもたち全員に読んでもらいたいと思いました。私たちは今、平和な時代に生きていて、動物園に行けばたくさんの動物に会うことができます。しかし、この本を読むと、戦争が始まればその当たり前の日常が簡単に壊され、罪のない動物たちの命までもが奪われてしまうという事実を突きつけられます。この本の悲しい物語を二度と繰り返さないためにも、私たちは平和の尊さを学び、伝えていかなければならないと感じました。
魔法の質問10:【君がタイトルをつけるなら?】
「もし君がこの本に新しいタイトルをつけるとしたら、どんな名前にする? なんでそのタイトルがいいと思ったの?」
質問の謎: 本全体を振り返り、「この物語で一番大切なことは何か」というテーマを、お子さん自身の言葉で要約させます。タイトルを考えるというクリエイティブな作業を通じて、物語への理解度を測ることもできます。
具体的な会話例:
親: 「この『ごんぎつね』、もし君がタイトルを新しくつけるとしたら、どんな名前にする?」
子: 「うーん…『伝わらなかった「ありがとう」』かな。」
親: 「おぉ、なんだか切ないタイトルだね。どうしてそのタイトルにしたの?」
子: 「ごんは、兵十に償いをしたくて、毎日栗やまつたけを届けてたのに、兵十にはそれが伝わらなくて、最後は撃たれちゃったから。『ありがとう』って気持ちが伝わっていれば、こんな悲しいことにならなかったのにって思った。」
親: 「なるほどね…。ごんの本当の気持ちがタイトルになってるんだね。すごくいいタイトルだと思うよ。」感想文への活かし方: 自分で考えたタイトルを提示し、その理由を説明することで、読書感想文の書き出しやまとめにインパクトを持たせることができます。自分の解釈を鮮やかに示す、高度なテクニックです。
(例文) 私がもしこの物語に新しいタイトルをつけるとしたら、『伝わらなかった「ありがとう」』とつけます。なぜなら、この悲しい物語の原因は、ごんの償いの気持ち、つまり兵十への「ありがとう」の反対の気持ちが、最後まで伝わらなかったことにあると強く感じたからです。思いやりの心があっても、それが相手に伝わらなければ、すれ違ってしまう。このお話は、人と人とのコミュニケーションの難しさと、だからこそ自分の気持ちをきちんと伝えることの大切さを、私に教えてくれました。
第4章:準備はOK!「言葉のかけら」を感想文に組み立てる3ステップ
さぁ、魔法の質問でお子さんの心の中からたくさんの「言葉のかけら」が集まりましたね。 「勇気」「力を合わせる」「ドキドキした」「もし自分だったら…」 これらの宝物を、いよいよ原稿用紙の上に並べていきましょう。
でも、いきなり「書きなさい」では、子どもはまた固まってしまいます。 ここでも親はコーチとして、組み立て作業をサポートしてあげましょう。 おすすめは、付箋を使う方法です。
ステップ1:言葉を書き出す(見える化)
まず、今までの対話で出てきたキーワードや短いフレーズを、一枚に一つずつ付箋に書き出していきます。これは親が書いてあげても、お子さん自身が書いてもOKです。
(例) 「さとしの勇気」「ねずみばあさんは怖い」「友だちを守る」「自分だったら怖いかも」「でも頑張りたい」
ステップ2:グループ分けして構成を考える(並べ替え)
書き出した付箋をテーブルの上に広げ、似たもの同士でグループ分けしてみましょう。そして、読書感想文の基本構成である「はじめ・なか・おわり」の3つのエリアに、付箋を並べ替えていきます。
【はじめ】:一番心に残ったこと、この本を選んだ理由など
- 付箋:「さとしの勇気」「一番ドキドキした」
【なか】:どうしてそう思ったのか、具体的な場面の説明、その時の自分の気持ち、自分との比較など
- 付箋:「ねずみばあさんは怖い」「友だちを守る」「自分だったら怖いかも」
【おわり】:この本を読んで学んだこと、考えたこと、これからの自分について
- 付箋:「でも頑張りたい」「勇気を持つことが大切」
こうして並べるだけで、書くべきことの全体像が見え、お子さんは「これなら書けそう!」と安心できます。
ステップ3:付箋をつなげて文章にする
あとは、並べた付箋の順番に沿って、言葉をつなげ、文章にしていくだけです。 ここでのポイントは、「完璧な文章じゃなくていいよ。まずはおしゃべりするように書いてみよう」とハードルを下げてあげること。
「『さとしの勇気がすごいと思った』って付箋があるね。じゃあ、『ぼくは、この本を読んで、さとしの勇気がすごいと思いました』って書いてみようか」というように、具体的に声をかけてあげると、お子さんはスムーズに書き進めることができます。
誤字脱字や、少しおかしな表現は、全部書き終わった後に一緒に見直せば大丈夫です。まずは最後まで書き上げる「達成感」を味あわせてあげることが何よりも大切です。
まとめ:読書感想文は、親子の絆を深める最高のチャンス
いかがでしたでしょうか。 これまで「夏の宿題のラスボス」でしかなかった読書感想文が、なんだか親子の楽しいコミュニケーションの時間に思えてきませんか?
今回ご紹介した”魔法の質問術”は、小手先のテクニックではありません。 「子どもの心に寄り添い、その子自身の言葉を尊重し、引き出してあげる」という、子育てそのものに通じる関わり方です。
- 子どもは、自分の気持ちを言葉にする方法を知らないだけ。
- 親の役割は、答えを教える「先生」ではなく、引き出す「コーチ」。
- 「質問」という名の優しいノックで、対話を楽しみましょう。
読書感想文は、成績のためだけに書くものではありません。 一冊の本を通じて、お子さんが何を感じ、何を考え、どう成長したのか。その貴重な記録であり、親が子どもの内面を深く知ることができる、またとないチャンスなのです。
今年の夏休みは、「早く書きなさい!」のイライラを手放して、「へぇ、そんなこと考えてたの!」という発見に満ちた時間を過ごしませんか? この記事が、あなたの家庭の読書感想文タイムを、笑顔あふれるかけがえのない思い出に変える一助となれば、これほど嬉しいことはありません。