1. はじめに
Googleが提供する「Gemini Code Assist」は、AIを活用した強力なコーディング支援ツールとして、多くの開発者の生産性向上に貢献しています。コードの自動補完、自然言語によるコード生成、デバッグ支援など、多岐にわたる機能を提供することで、開発ワークフローを効率化します 1。しかし、その一方で、プライバシーへの懸念、コスト、または単に利用の必要がないといった理由から、このツールの利用を停止したいと考えるユーザーもいるかもしれません。本記事では、「Gemini Code Assist」の利用を停止(オプトアウト)するための様々な方法を、環境別に詳しく解説します。ご自身の状況に合わせて、最適な方法を見つけてください。
2. Gemini Code Assist とは?
「Gemini Code Assist」は、Google Cloudが提供するAIを活用したコーディング支援サービスです。開発者が日々のコーディング作業をよりスムーズに進められるよう、以下のような主要な機能を提供しています
- AIによるコード補完と生成: コードを入力するにつれて、文脈に応じたコードの候補を提示したり、コメントに基づいてコードのブロックや関数全体を自動生成したりします。20以上のプログラミング言語に対応しており、Java、JavaScript、Python、C++、Go、PHP、SQLなどが含まれます。
- 自然言語チャット: 自然な言葉でコーディングに関する質問をしたり、コーディングのベストプラクティスについてアドバイスを受けたりできます。このチャット機能は、サポートされているすべてのIDEで利用可能です。
- デバッグ、理解、ドキュメント作成の支援: コードのデバッグ作業をサポートしたり、既存のコードの理解を助けたり、コードのドキュメント作成を支援したりする機能も備わっています。
- コンテキストに応じた応答と引用: ユーザーのプロンプトに対して、関連性の高い応答を提供し、その応答を生成するために参照したドキュメントやコードサンプルを引用元として提示します。
- スマートアクションとコマンド: コードの修正、生成、説明といったタスクを自動化するためのショートカットである、スマートアクション(右クリックでアクセス可能)とスマートコマンド(スラッシュ / で開始)を提供します。
- Google Cloudサービスとの統合: Apigee、Firebase、BigQueryなど、様々なGoogle Cloudサービスと深く統合されており、それぞれの環境に特化した支援機能を提供します。
- ローカルコードベースの認識(Enterprise版): Enterprise版では、ローカルのコードベースのコンテキストを理解し、より関連性の高いコード提案を行います。
- プライベートコードベースによるカスタマイズ(Enterprise版): Enterprise版では、組織のプライベートなコードベースを利用して、よりカスタマイズされた支援を受けることができます。
「Gemini Code Assist」には、利用形態に応じて以下の3つのエディションがあります
- Gemini Code Assist for individuals: 無償で利用可能な個人向けのエディションです。
- Gemini Code Assist Standard: Gemini for Google Cloudポートフォリオに含まれる製品です。
- Gemini Code Assist Enterprise: 同じくGemini for Google Cloudポートフォリオに含まれる製品です。
これらのエディションは、Visual Studio Code、JetBrains IDEs(IntelliJ、PyCharmなど)、Cloud Workstations、Cloud Shell Editorといった主要なIDEで利用可能です
エディション | 主な機能 | コスト |
---|---|---|
Gemini Code Assist for individuals | コード補完、チャット、デバッグ支援など | 無料 |
Gemini Code Assist Standard | 上記に加え、Google Cloudサービスとの統合、知的財産保護など | 有料 |
Gemini Code Assist Enterprise | Standardの機能に加え、プライベートコードベース連携、エンタープライズナレッジ統合など | 有料 |
3. 公式なオプトアウト方法
現時点では、「Gemini Code Assist」に対して、単一の明確な「オプトアウト」のメカニズムは提供されていないようです。利用を停止するためには、利用している環境に応じて個別の対応が必要となります。これは、「Gemini Code Assist」がGoogleの開発エコシステムに深く統合された機能として提供されているためと考えられます。そのため、グローバルに一括で無効化するのではなく、各プラットフォームやIDEレベルで細かく制御する必要があります。
4. 各環境での Gemini Code Assist の無効化
「Gemini Code Assist」は様々な環境で利用できるため、無効化の方法もそれぞれの環境によって異なります。
4.1. IDE (Visual Studio Code, JetBrains IDEs)
4.1.1. Visual Studio Code
- 方法1:テレメトリー/データ共有の無効化(無料版)
無料版の「Gemini Code Assist for individuals」を利用している場合、Googleとのデータ共有をオプトアウトできます。これは、ツールの機能を完全に停止させるわけではありませんが、プライバシーを重視するユーザーにとって有効な選択肢となります。- VS Codeに拡張機能をインストールしてサインインした後、Geminiパネルに表示されるプライバシーに関する通知リンクをクリックします。
- 表示されたプライバシー設定で、「Allow Google to use this data...(Googleがこのデータを使用することを許可する)」というチェックボックスのチェックを外します。
- もしGeminiパネルを閉じてしまった場合は、VS Codeの設定(geminicodeassist.enableTelemetry)を開き、「Gemini Code Assist for individuals privacy settings(Gemini Code Assist for individualsのプライバシー設定)」というリンクをクリックすることで、再度プライバシー通知を開くことができます。
- 方法2:インラインコード補完の無効化
コード入力中に表示されるインラインのコード補完機能を無効化することができます 6。 - 方法3:拡張機能のアンインストール
「Gemini Code Assist」の機能を完全に停止するには、VS Codeから拡張機能をアンインストールします。
4.1.2. JetBrains IDEs (IntelliJ, PyCharm など)
- 方法1:AIコード補完の無効化
JetBrains IDEsでインラインのコード補完機能を無効化する方法です。- IDEのステータスバーにある、スパークアイコン(稲妻のようなマーク)で「Gemini Code Assist: Active」と表示されているものをクリックします。
- 表示されたメニューから「Enable AI Code Completion」を選択し、チェックを外します。これにより、インライン補完が無効になります。
- 方法2:会話履歴のクリア
チャット機能の会話履歴をクリアする方法です。 - 方法3:プラグインの無効化
「Gemini Code Assist」のプラグインを無効化することで、機能を停止できます。 - 方法4:ログアウト(利用可能な場合)
IDEのプラグインによっては、ログアウト機能が提供されている場合があります。- IDEの右下隅などにある「Gemini Code Assist」のアイコンを探します。
- アイコンをクリックして表示されるメニューに「Log out」または同様のオプションがあるか確認し、あれば選択します。
IDE | 無効化方法 | 設定/場所 |
---|---|---|
VS Code | テレメトリー/データ共有の無効化 | Geminiパネル内のプライバシー通知または設定 (geminicodeassist.enableTelemetry) |
VS Code | インラインコード補完の無効化 | Settings > Extensions > Gemini Code Assist > Duet AI: Inline Suggestions: Enable Auto (Off) |
VS Code | 拡張機能のアンインストール | 拡張機能ビューで「Gemini Code Assist」を検索し、「Uninstall」 |
JetBrains IDEs | AIコード補完の無効化 | ステータスバーの「Gemini Code Assist: Active」アイコンをクリックし、「Enable AI Code Completion」のチェックを外す |
JetBrains IDEs | 会話履歴のクリア | Gemini Code Assistツールウィンドウの「Clear Conversation History」アイコン |
JetBrains IDEs | プラグインの無効化 | Settings > Plugins > Installed で「Gemini Code Assist」を検索し、「Disable」 |
JetBrains IDEs | ログアウト | IDE内のGemini Code Assistアイコンのメニュー(利用可能な場合) |
4.2. Google Cloud Console (有料版:Standard および Enterprise)
有料版の「Gemini Code Assist Standard」または「Enterprise」を利用している場合は、Google Cloud Consoleからサブスクリプションを管理することで利用を停止できます。
- 方法1:Gemini Code Assist サブスクリプションの停止
- Google Cloud ConsoleのAdmin for Geminiページに移動します](https://www.google.com/search?q=https://console.cloud.google.com/gemini-admin)%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%81%AB%E7%A7%BB%E5%8B%95%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99)
- 「Purchased products」をクリックします。
- 該当する課金アカウントを選択し、「Continue to Admin for Gemini page」をクリックします。
- 購入済みプロダクトのリストから、「Gemini Code Assist subscription」を選択します。サブスクリプション名は設定時に指定した名前によって異なります。
- サブスクリプションの詳細を確認します。「Auto renew」が「On」になっている場合は、「Manage subscription」をクリックします。「Off」になっている場合は、指定された終了日にサブスクリプションが終了します。
- 「Automatic subscription renewal」で、「No, don't automatically renew」を選択し、「Continue」をクリックします。
- 利用規約に同意する場合は、「I agree to the terms of this purchase」にチェックを入れ、「Save changes」をクリックします。
この操作を行うには、billing.subscriptions.update のIAM権限が必要です 10。この権限は、roles/billing.admin IAMロールに含まれているか、カスタムロールに追加できます。
- 方法2:特定のユーザーに対するIAM権限の削除
特定のユーザーのアクセスを制限するために、IAM権限を削除できます。
Cloud Shellコマンド (gcloud projects remove-iam-policy-binding) を使用してIAMポリシーのバインディングを削除することも可能です。
- 方法3:Gemini for Google Cloud API の無効化
すべてのGemini for Google Cloudプロダクトを無効にする場合は、Gemini for Google Cloud APIをオフにすることができます。 - 方法4:ライセンスの管理
サブスクリプションのライセンス数を減らしたり、特定のユーザーからライセンスを解除したりすることもできます 12。詳細な手順については、Google Cloudのドキュメント「Gemini Code Assist Standard および Enterprise ライセンスの管理」を参照してください。
アクション | Google Cloud Console での設定/場所 | 適用エディション |
---|---|---|
サブスクリプションの停止 | Admin for Gemini > Purchased products > Gemini Code Assist subscription > Manage subscription > No, don't automatically renew | Standard, Enterprise |
IAM権限の削除 | IAMと管理 > プリンシパル > 該当ユーザーの編集 > Gemini for Google Cloud User および Service Usage Consumer ロールの削除 | Standard, Enterprise |
Gemini for Google Cloud API の無効化 | APIとサービス > ライブラリ で Gemini for Google Cloud API を検索し、無効にする | Standard, Enterprise |
ライセンスの管理 | Admin for Gemini > Manage Gemini Code Assist > Manage Subscription | Standard, Enterprise |
5. その他の利用停止方法
上記以外にも、より細かく利用を停止する方法があります。
- 5.1. 特定機能の無効化: IDEの設定から、コード補完やチャットなどの特定の機能のみを無効化できます 6。具体的な手順は、4.1.の各IDEの項目を参照してください。
- 5.2. 設定の調整: コード生成時に引用元と一致するコードの提案を無効にするなど、詳細な設定を調整できます 6。例えば、VS Codeでは、Settings > Extensions > Gemini Code Assist > Duet AI: Recitation: Max Cited Length を 0 に設定することで、この機能をオフにできます。
- 5.3. チャット履歴のリセット: 過去のチャットのやり取りが気になる場合は、チャット履歴をリセットできます 6。具体的な手順は、4.1.2.のJetBrains IDEsの項目を参照してください。
6. オプトアウトに関する注意点と影響
「Gemini Code Assist」の利用を停止する際には、以下の点に注意し、その影響を理解しておく必要があります。
- 機能の喪失: 当然ながら、「Gemini Code Assist」を無効化またはアンインストールすると、AIによるコーディング支援機能は一切利用できなくなります。
- データプライバシー: 無料版の場合、テレメトリーをオプトアウトすることで、Googleへのデータ共有を停止できます 5。Googleのプライバシーポリシーについては、3で確認できます。Gemini Apps Activityをオフにしても、サービスの提供やフィードバック処理のために、会話が短期間保存される場合があることに注意が必要です 14。Googleアカウントの設定でGemini Apps Activityを管理できます。
- チームの生産性への影響(有料版): チームで有料版を利用している場合、一部のユーザーが利用を停止すると、チーム全体の連携やコーディング規約の統一性に影響が出る可能性があります。
- 再有効化の可能性: IDEやGoogle Cloudのアップデートによって、機能が再度有効になったり、利用を促すプロンプトが表示されたりする可能性があることに留意してください。
7. まとめ
本記事では、「Gemini Code Assist」の利用を停止・オプトアウトするための様々な方法を解説しました。無料版の個人ユーザーであればIDEの拡張機能の設定を、有料版の組織ユーザーであればGoogle Cloud Consoleのサブスクリプション管理やIAM権限の変更を行うことで、利用を停止できます。また、特定の機能のみを無効化したり、設定を調整したりすることで、より柔軟な利用停止も可能です。ご自身の利用状況や目的に合わせて、最適な方法を選択してください。利用停止を行う前に、その影響を十分に理解しておくことが重要です。
より詳細な情報については、以下のGoogleの公式ドキュメントを参照してください。
- Gemini Code Assist の概要: https://cloud.google.com/gemini/docs/codeassist/overview
- Gemini Code Assist のドキュメント: https://developers.google.com/gemini-code-assist/docs/overview
- Gemini Code Assist の無効化: https://developers.google.com/gemini-code-assist/docs/turn-off-gemini
- Gemini Code Assist for individuals プライバシーに関するお知らせ: https://developers.google.com/gemini-code-assist/resources/privacy-notice-gemini-code-assist-individuals
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